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 Movie Review 2002・12月7日(SAT.)

ダーク・ブルー

 おお、またもやチェコ映画です。『この素晴らしき世界』、ヤン・シュワンクマイエル新作、ロケ地として『トリプル X』『9 デイズ』で使われたりと、空前のチェコブーム到来の予感。それはともかく、第二次大戦中、チェコ空軍パイロットたちは、ナチス・ドイツに占領された故国を逃れ、イギリス空軍に参加し名機スピットファイアーを駆って、ドイツ軍メッサーシュミットと壮絶な空中戦を繰り広げたのであった。ババーン!

 …と、チェコ映画というだけでも珍しいのに、なんと戦争映画であり、さらに実機を飛ばして撮影された空中戦がバチグンのスペクタクルなのでした。なんでも通常のチェコ映画の 10 倍の製作費が投入され、その甲斐あってかチェコ国内において 10 人に 1 人が観る大ヒット作となったそうで。

 さて、二人のパイロット、歳が離れてはいるが大の親友・フランタとカレルを主人公に物語が展開、二人は一人の女性を愛してしまう…って、なんか『パールハーバー』みたいな話ですけど、この『ダーク・ブルー』を見れば『パールハーバー』って、ほんまスカスカやったなあ、と改めて思うのでした。この設定自体はクラシックなんですけど、『ダーク・ブルー』の優れているのは、戦後、労働キャンプにぶち込まれたパイロットが回想するという構成を取っている点です。すなわち「回想」ですから、話が嘘くさくドラマチックになったとしても、記憶は捏造されるということでオッケー、回想が美しければ美しいほど、労働キャンプの悲惨さがクッキリとしてくる、というか。

 ナチス・ドイツと戦った英雄パイロットたちが、戦後、労働キャンプに放り込まれた、っちゅうのも凄いですね。なんでも共産主義政権は、彼らが再び自由のために戦うのを怖れたそうで。自由と民主主義のために戦ったのに、ソビエト共産主義という別の全体主義を呼び込んでしまった、という歴史の皮肉でございます。

 祖国のために戦ったパイロットたちが、蔑ろにされていたチェコの戦後は、日本の現状と重なります。…って、なんか小林よしのりみたいですけど、1970 年代までは、例えば『ゼロ・ファイター大空戦』(1966 ・東宝)のように、今現在の観客が見ても共感できる兵隊さん映画が普通に撮られていました。祖父の世代に敬意と感謝を捧げるためにも、日本もぜひ『ダーク・ブルー』を見習って、ゼロ戦乗りのリアルな映画を作っていただきたい、と思う今日この頃。

 そんなことはどうでもよく、パンフで宮崎駿も語るように、戦闘機の「はかなさ」が見事に映像化されております。至極簡単に、ぽこぽこ墜落していく。板子一枚下は地獄と申しましょうか、「戦闘機に乗るとは、こういうことだったんだなあ」と詠嘆。閃光を上げて発射される機銃、積乱雲の上を飛ぶ編隊など、何とも素晴らしい映像多数です。

 監督は『コーリャ 愛のプラハ』(未見)のヤン・スヴィエラーク。ヨーロッパ映画のテイストを保ちつつ、戦闘シーンのリアリティはアメリカ映画を凌駕する傑作です。ミニシアター系の小さな画面で見なければならないのは悲しいですけど、戦闘機の飛行シーンがとにかく素晴らしいのでオススメです。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2002-Dec-07;

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