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Movie Review 10月21日(SUN.)

式日

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『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督、『ラブ & ポップ』に続く実写映画の新作です。

 見るからに危ない、ワケわからん恰好の“女”と“男”が出会って仲良くなってワケわからんビルで同居します。“イカれた女性”と“やさし過ぎる男”、という社会からの逸脱者同士の疑似恋愛のようなお話しでして、『ベティ・ブルー』とか『赤ちょうちん』(1974 ・藤田敏八監督)風のよくあるパターンでございます。

 ですが、“男”は創作に行き詰まった映画監督、これを実際の映画監督・岩井俊二が演じおり、そのまんまやん! 原作は女優・藤谷文子著の小説『逃避夢』で作者自身が主人公を演じており、そういうわけで演技にリアル感漂って見応えのある作品となりました。ことに藤谷文子の素なキチガイぶりは背筋が寒くなるシーンもあったりで、『こわれゆく女』(1975/ジョン・カサヴェテス監督)のジーナ・ローランズを思い出しましたよ、ワタシゃ。

 二人がフニャフニャとイチャイチャするシーンは「やれやれ」って感じなんですが、二人が出会った時より「1 日目 30 日前」「2 日目 29 日前」…てな具合に字幕によるカウントダウンが開始され、30 日後に何やら大事件が勃発するに相違ない、ムフフ、とサスペンスやみなぎって良し。

 さて庵野監督の演出はどうでしょう? “男”が劇中で独白します。「現代においては映画というモノは何を作ったとしても“娯楽”か、“癒し”として消費されていくばかりなり」と。『エヴァンゲリオン』初期エピソードに見られるように、庵野監督は圧倒的なテクニックでオタクごころを鷲掴みにする才能の持ち主ですが、「簡単に消費されてたまるもんか」と作品に務めて異物を紛れ込ませます。ただ面白おかしく作っただけでは簡単に消費されてしまう。センスの欠如したオタクにウケても妙に虚しい。意図的に観客の期待を裏切る戦略を取ります。

『エヴァンゲリオン』後半や『ラブ & ポップ』は結局ちょっと痛かったりもしたのですが、今回は余り痛くないのですね。過剰にカメラワークに凝るのはどうか? とか、キチガイ女=藤谷文子の奇天烈なファッションやメイク、二人が住む廃ビルのインテリアなど最早映画美術として成立していないのではないかいな? とか、そこはかとなくタルコフスキー、はたまた『ザ・セル』の雰囲気が漂ったり、とか、何かとオタク趣味に陥る危険性をはらんでいるのですが、ベテラン長田勇市の撮影素晴らしく、ロケ現場選択も気色よく、なかなかカッコいいのではないかいな? と私は呆然と画面を眺める快楽に身をまかせたのでした。が、エンドタイトルの Cocco さんの歌はどうかナー? と思ったのですけど。よく知りませんが。

 そんなことはどうでもよくて、やっぱり藤谷文子凄すぎ! 大竹しのぶもビックリです。感極まり思わず関西弁丸出しになるところは寒気がしましたよ、ワタシゃ。「そのまんま」岩井俊二も好演。さらに出てくるだけで観客に多幸感を与えてしまうムラジュンがまたまた好演。2 時間超の上映時間は少々長いですけどオススメです。

BABA Original: 2001-Jan-21;

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