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Movie Review 11月6日(TUE.)

リリィ・シュシュ
 のすべて

『Love Letter』以降、何だかパッとしない感じ(そんなことないですか?)の岩井俊二監督の、堂々たる 2 時間 26 分の大作です。

 原作は、インターネット上で読者も書き込みが出来る掲示板として書かれた小説(?)らしいですぞ。あれこれインターネットとリンクして『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』風のあざとい売り方か? と邪推してしまうのですが、そんなことはどうでもよくて「14 歳のリアル」、主人公少年が体験する、夢のようにドラマチックな少年犯罪/事件オンパレードの日々を描きます。

「リリィ・シュシュ」とは、主人公たち少年少女が聞き入る架空の「癒し系」女性歌手。少年少女らは、インターネットの掲示板に匿名で集い、毎夜イタい書き込みを繰り広げます。

 例によって家庭用ヴィデオで撮られたかのような生活の断面をザックリと編集した MTV チックな映像に、イタい書き込みの文字が重ねられ、そこに(架空の)癒し系ミュージックが延々と流れる!! かような映像は私にとってもはや正視不可能なイタさをたたえるはずなのですが、「これは、いい!」と思わず暗闇でつぶやいたのでした。

 主人公少年にとって日々は耐えがたくヘヴィなモノです。そこから抜け出すには闘いをしかけるしか無い、と思えるのですが、少年は癒し系音楽とインターネット掲示板で中途半端に癒されてしまって、ズルズルと深みへとはまっていきます。「癒し系」の阿片性――苦痛を和らげるだけ、根本的な解決から目をそらさせる役割が見事明らかになっております。「癒し系」は阿片だ、と。

 この指摘は映画にもはね返り、岩井監督の「癒し系」な映像は、そこに観客がドップリ浸ることを許さず、クールでハードボイルドな様相を呈している、と思うのです。どこまで作者が自覚的なのかはわかりませんが、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』に似ている、というか。そう感じた人いませんか? いませんね。失礼しました。

 生半可な大人の見解を述べていないのも潔くて良いです。この映画の少年犯罪は、優等生少年が突如荒れ出し、悪魔的ないじめを開始することから始まります。何故、少年が荒れたのか…? それは永遠の謎。原因は何か? 解決策は何か? 岩井監督は何も答えず、ただ少年たちの日常の断片をゴロリと投げ出すだけです。原作本を買わせたりサイトにアクセスさせる戦略かも知れませんが、この、ゴロリ感が良い。

 さらに、主人公少年はウジウジしたヤツなんですが、自殺することもなく、何事もなかったかのように生きていけるヤツなんですね。彼はナイーブであるとともに、凡庸に生き続けられる鈍感さ(大人の素質)の持ち主であることも示され、これぞまさしく「14 歳のリアル」。14 歳の頃ってこんなだったナー、って感じ。

 そう、大人も、たまには封印された 14 歳の頃の記憶を呼び覚ましてみればいい、と思うのです。もちろん子供の気持ちがわかるなどと言う素振りは見せてはいけませんよ。『GO』の山崎努のように、圧倒的に強力な父性をもって無言で少年少女をボコボコに殴らねばならない。完膚無きまでに。そう、「癒し系」では決して救われず。少年少女を救うのは山崎努なのだ、と私は卒然と悟ったのでした。

 ま、そんなことはどうでもよくて、主人公キミら、中学生の分際で沖縄旅行なんか行ってるから、そんなイタい目に会うのだ。分相応をわきまえないと天罰が下りますよ…ってことで。

 ともかく、「癒し系」監督による「『癒し系』研究」。イタいだけでなく、爆笑シーンもチョッとあり(劇場では私以外誰も笑ってませんでしたが)、岩井監督が苦手な方にもオススメです。『GO』と合わせてどうぞ。

BABA Original: 2001-Nov-06;

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