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Movie Review 3月28日(WED.)

あの頃
 ペニー・レインと

 原題は「Almost Famous」。中国語題は「成名之路」。架空のロックバンド「スティルウォーター」のブレイク寸前時代のことであり、監督キャメロン・クロウ自身の有名直前時代を描いております。

 キャメロン・クロウといえば、これまで『セイ・エニシング』『シングルズ』『ザ・エージェント』と、1989 年からたった 3 本、寡作と言えるかもしれません。今どき珍しく綿密なリサーチを行って自身で脚本を書く、しかもそれぞれ徹底的に練り上げるわけで、寡作も致し方なしなんですが、現在すでに新作――ペネロペ・クルス、トム・クルーズ、キャメロン・ディアス出演――『Vanilla Sky』がポスト・プロダクション中だそうですので、クロウ好きには嬉しい限りです。

 このクロウ監督、元々「ローリング・ストーンズ」誌のライターとして様々なロケンローラーと親交を結び、ハイスクール潜入ルポ『初体験リッジモンドハイ』がベストセラーになって、その映画化脚本で映画に進出…という数奇な運命をたどっております。この『Almost Famous』は、そんなクロウ監督の少年時代―― 15 歳(!)で「ローリング・ストーンズ」誌のカヴァーストーリーを飾った記者デヴューの頃のフィクションを織り交ぜた回想録です。

 1973 年当時売り出し中の架空のバンド「スティルウォーター」全米ツアーの同行記を書くことになり、多感な 15 歳の秀才少年が、セックス、ドラッグ & ロケンロールのまっただ中に放り込まれる、しかも実体験に基づいているわけで、おもしろくないわけがないですね。

 姉が母親と衝突して家出するとき、優等生だったクロウ少年にロッケンロールの名盤の数々を置きみやげにします。クロウ少年はすっかりロケンロールにイカれてしまいますが、ロック評論家を目指したのが珍しいところですね。

 映画の中で、あるロケンローラーが言います。「11 年後には、独裁者が世界を支配してしまうんだ、我々はそうならないために歌うんだ。」…字幕では「11 年後」となっていて何のことだかわかりませんが、セリフでは「1984」といっております。デヴィッド・ボウイーも歌にした、ジョージ・オーウェル『一九八四年』がこの時代のマスト・アイテムであり、ロケンロールとはすなわち既成の秩序に反抗する思想革命だったのですね。一つのバンドのツアー同行記を通して、ロケンロール革命の進行、裏切り、挫折などが凝縮して描かれており、腑に落ちる感じです。

 音楽は余り詳しくないので何ですが、当時のロック事情に詳しい方なら泣いて喜ぶエピソード満載でしょう。IMDBトリビア(おたく豆知識)によりますと…、

  • ラリったヴォーカリストが屋根に登って叫ぶ「オレは黄金の神だ!」は、ツェッペリンのロバート・プラントがホテルのバルコニーで叫んだセリフ。
  • キャメロン・クロウが最初にツアー同行記を書いたバンドは、オールマン・ブラザース・バンド。
  • キャメロン・クロウが実際、飛行機で墜落しそうになったとき一緒だったのはザ・フー。
  • 「スティルウォーター」のヴォーカリストのキャラは、イーグルスのグレン・フライを元にしている。
  • 飛行機が乱気流に巻き込まれたシーンで、『Peggy Sue』が歌われるのは、その作者バディ・ホリーが飛行機事故で死んだから。

 …その他、ロケンロールにまつわる故事が引用されているようです。

 クロウ監督、現在若干 43 歳。自らの「頭が良く、みんなに愛されたオレの、素晴らしかった少年時代」を回想するとは「あなた、何様のつもり?」と思わないでもないですが、映画としてのおもしろさは圧倒的ですし、何としても語りたい物語がある! との熱い魂(ソウル)をヒシヒシと感じますので許しましょう(私は何様?)

 クロウ監督は、現存する最古の巨匠ビリー・ワイルダーにロング・インタビューを敢行、その顛末を一冊の本『ワイルダーならどうする?』にまとめております。元記者の面目躍如ですが、このインタビューを通し、いい映画を如何に作るかのノウハウを吸収しまくったようです。ワイルダーの模倣でなく、深い精神のところでワイルダーの脚本家魂(ソウル)をしっかりと受け取っております。最高です。

 クロウ少年時代を演じたパトリック・フュジットは、ちょっとビリー・マグワイアの若いとき(今も若いですが)を彷彿とさせる好演。グルーピーならぬ「バンド・エイド」=バンドの魂(ソウル)の救済者(含むセックス)のリーダー的存在「ペニー・レイン」を演じるケイト・ハドソンは、ゴールディー・ホーンの娘だそうで、すくすくと大きく成長して良かったですね。

 圧倒的なおもしろさのこの映画、なぜか京都では上映しておりません。浜大津アーカスシネマで上映中。わざわざ見に行く価値ありまくりのオススメです。

BABA Original: 2001-Mar-28;

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