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Movie Review 3月24日(SAT.)

女体(じょたい)

 増村保造レトロスペクティブの一本。浅丘ルリ子の才能に惚れ込んだ増村保造が、彼女のために脚本を書いた、というだけあって、浅丘ルリ子がとんでもないことになっています。

 まず冒頭、暗い会議室、浅丘ルリ子のダンスで観客は度肝を抜かれます。ただのダンスではありません。踊っていたとみるや突如机を囓り出す始末。「ルリ子! もっとワイルドに!」と演出する増村監督の声が聞こえるようです。もう、掴みはバッチリですね。「いつまでタイトルやっとんねん、早いこと本編始めんかい!」…みたいな最近の映画(『スナッチ』とか?)とはえらい違いです。映画が始まった瞬間に「映画」が始まっているのですね。

 彼女が踊っていた会議室とは、学生紛争華やかなりし某大学構内であり、ルリ子は「理事長の息子に犯されたから」と 200 万円を要求します。理事長秘書の岡田英次がルリ子との交渉にあたることになり、その妻、岸田今日子は半額に値切ろうとしたりするのですが、岡田英次は独断で 200 万円を支払います。「あんたーっ! いい人っんねぇーっ!」…と、ルリ子は大喜び、岡田英次を気に入ってしまったら、もうたいへん。あの手この手の誘惑が始まります。

 岡田英次は、戦争で両親を亡くし、歳の離れた妹を男手一つで育て上げた苦労人なんですね。大学理事長の婿養子の座を得るまで忍の一字で頑張ってきたのですが、ルリ子の野放し猛アタックに屈し、ついにベッドをともにしてしまいます。ルリ子は言います。「あたし、アンタと一緒に暮らすことだけが夢なのよぉぉぉー!」…岡田英次は、もう息苦しい生活はガマンできない、と岸田今日子に離縁をお願いし、ルリ子のマンションへと転がり込みます。

 おや? なんだかルリ子がよそよそしいじゃないですか。ネタをバラして恐縮ですが、部屋の奥から現れたのは、パンツ一丁の川津祐介だっ! 悠然と、自分がパンツ一丁だとはついぞ気付かぬそぶりです。別の男が現れるとは予想していましたが、パンイチの川津祐介とは! ここで私の頭は思考停止、ホワイトアウト。映画の展開が予想を上回った幸福な瞬間です。

 さて日本映画における「パンツ一丁」といえば、『北京原人 WHO ARE YOU ?』の緒方直人が有名でしょう。『北京原人』のパンイチは、原人との友好を深めるためだったのですが、『女体』におけるパンイチは、敵意のサインです。「パンツ一丁」というイコンが、約 30 年の間に「威嚇」から「友好」へと変容しているわけですね。どうでもいい話でした。

 なんだかんだあって岡田英次とルリ子は、理事長の隠し財産をチョロまかしてバーを開きます。

 しかし、わがまま一杯のルリ子に水商売が勤まるわけがありませんね。あんまりな客あしらいで、客が怒りだします(当たり前)。客にからまれているところを、岡田英次の妹のフィアンセの男前が救出。案の上、ルリ子はその男前に猛アタックをかけます。

 いきなり男前の会社に押し掛け、海辺に誘い出します。そして突如海に飛び込む! キチガイにもほどがあるのですが、男前はしゃあないので助ける。ルリ子が言うには「嬉しいわー! 私を助けてくれて! 私を見捨てなかったのね!」…人間はここまで自分勝手になれるのか? 私は戦慄とともに深い感動を味わったのでした。

 男前は、ルリ子の猛アタックを毅然とはねのけ、最後通告を突きつけます。「もうボクの前に現れないでくれ!」ルリ子は、家へと送られる車の中で言います。「わかったわ。でも最後のお願い。私、旦那様を会社へ車で送り迎えするのが夢だったの。私に運転させて!」

 …こ、こいつ、いっぺん死ぬか?…という感じなのですが、案の定、ルリ子は車を電柱に激突させます。ルリ子はアンブレイカブル、助手席のフィアンセは大ケガを負います。「死ねばこの人を独占できると思ったのよ!」…一体、どういう神経でしょうか。私は再びホワイトアウト。

 お話の紹介も疲れてきたので、ここから後はご自分でご覧になってください。とにかく浅岡ルリ子の欲望解放・無反省ぶりが凄まじいことになっています。登場するたびに違う衣装なのも、きっと欲しい洋服はガンガン万引きしまくっているのでしょう、見所となっています。下着姿で踊り狂うシーンなどエロもたっぷり、世界映画史上にも類を見ない欲望開放ぶりを、ぜひ一度ご覧になっていただきたいものです。

 映画の登場人物のセリフを借りて増村保造は予言します。「彼女のような人間はこれから増えてくるだろうね」と。こんな女性が側にいたら鬱陶しくて仕方ない! 増村保造の予言が外れていることを祈るのみです。この『女体』の上映は、京都では終わっておりますが、引き続きの増村保造レトロスペクティブをお楽しみください。オススメ。

BABA Original: 2001-Mar-24;

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