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Movie Review 3月18日(SUN.)

小説家を
 見つけたら

 ガス・ヴァン・サント監督最新作は、処女作 1 冊を出版したきり姿を消した孤独な老小説家と、高い知能を持つ黒人少年が偶然出会い、ふたりの間に友情が芽生え、小説家は少年を世界へ羽ばたかせる後押しをする、というお話です。

 舞台は、もはや住人が貧しすぎて犯罪すら起こらないブルックリンの黒人街。少年は、ミシマやジョイスなどの文学を愛しているのですが、友達は皆ヒップホップ野郎ばかりですから、能ある鷹は爪を隠してバスケットに明け暮れています。育った環境に可能性を制限されているわけで…、おっと、この設定はガス・ヴァン監督の前々作『グッド・ウィル・ハンティング』と同じですね。

 少年の父は蒸発中です。小説家は非常に気むずかしいのですが、少年にとっては、この頑迷さと出会うことで、やっと才能を開花させることができるのですね。小説家は父親の役目を果たすのです。最近のアメリカ映画のある種の傾向=「父性の復権」というテーマが描かれています。

『グッド・ウィル・ハンティング』の場合は、ロビン・ウィリアムス演じる精神科医が「父性」を体現したのですが、『小説家を見つけたら』での「父親」はより頑固・頑迷なオヤジとなっています。ガス・ヴァン監督が考える父性像がより深化している…と、いうよりは、プロデューサーを兼ねるショーン・コネリーの意向が大分と反映されているようです。

 少年は、知性を発見され、進学校の奨学生になります。妙に差別的・権威主義的なユダヤ人(と思う)先生に目の敵にされ、苦難が訪れます。

 小説家の 1 冊きりの著作は、現代でも、予約を入れなければ図書館で借りることができないロングセラーです。小説家は、有名作家の肩書きを利用して少年の苦難を救うので、権威主義的な結末、アメリカ的な万事目出度しと見る向きもおられましょう。しかし、小説家は強力な父性を発揮、知性によってえせインテリの偽善を暴くのでしで、なかなか爽快です。

 小説家の家には山ほどの蔵書があります。それを見て少年が問います。「これ、全部読んだの?」小説家は答えて、「ふふん。客をビックリさせるために置いているのさ」

 このように、小説家と少年が交わす会話が(戸田奈津子氏の字幕ですが)、ウィットたっぷり、人生の教訓にもみちみちており、見どころとなっています。小説家は少年と向かい合ってタイプライターを叩き、文書作法を伝授します。「第一稿は何にも考えずに心で書く、第二稿は頭を使って書く!」など、いいセリフ満載です。

 ガス・ヴァン監督の演出は、かつてのカウンターカルチャーっぽさや前衛臭さがすっかり消え、悠然たるタッチです。昔はオレもとんがってたんだがなあ、と、そこはかとなく感じさせるのがいいですね。2 時間 19 分の長尺ですが、いつまででも見ていたい、と感じさせます。キャラ立ちが見事です。

『グッド・ウィル・ハンティング』の場合は、なんでマット・デイモンがミニー・ドライヴァーのような坂上二郎顔の女子に惚れるのかが大きな謎で、さすがガス・ヴァン、前衛的! と唸ったものですが、今回は、小説家にショーン・コネリー、少年にはずぶの新人ながら好演のロブ・ブラウン、人種を越えた恋心を寄せる相手にアンナ・パキン、少年を虐める痛い先生に『アマデウス』のサリエリこと F ・マーレー・エイブラハムスと、バッチリ決まったキャスティングとなっています。マット・デイモンもちょろっと出演。上手にまとまった佳作です。オススメ。

BABA Original: 2001-Mar-18;

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