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Movie Review 1月12日(WED.)

初恋のきた道

『あの子を探して』のチャン・イーモウの新作。『グリーン・デスティニー』のチャン・ツィーイー映画デビュー作である。

 息子が数年ぶりで故郷の田舎へ帰る。父親が死んだのだ。母親は、教師である夫を亡くしてから毎日、校舎の前に座り続けている、というくらい父親を愛している。息子は、「村の伝説」となっている父母の初恋物語を思い出し…。中国語題は「我的父親母親」。

 モノクロの現代から一転、総天然色の過去へ。世界がもっとも美しく輝く秋、田園風景が広がる。時代は 1958 年、中国革命の 10 年後だ。ボチボチ封建的な価値観が崩れだした頃か。チャン・ツィーイーは母親の若き時代を演じる。

 村でイチバンの器量よしの 18 歳の娘さんで、やっと村に出来た小学校の、若き教師に恋をする。「村で最初の自由恋愛」だ。やがて季節は冬に移り、彼女の恋は困難にみまわれ、もう、たまらん! って感じなのだが、考えてみれば息子が語っているのだから、この恋は成就することがあらかじめ予定されている、のだが、それでも、もう、たまらん! って感じだ。

 実は二回見たのだが、同じシーンで泣きました、とか言っていると某女子が「あれ? 泣くところなんかありましたっけ?」ってなことを言うたから、ひょっとしたらこの映画で無闇に感動しているのは男子のみか? 知らん。


 冒頭、息子が帰った実家の壁にはなぜか『タイタニック』のポスターが貼られている(しかも 2 種)。クラシックなラヴロマンスを成立させるのに『タイタニック』はウン十億円の巨費を投じたが、チャン・イーモウなら、キノコ餃子を作ればそれでオッケーなのであった。リーズナブル。

 そんな話ではない。チャン・イーモウは近年『秋菊の物語』『あの子を探して』と、教育の問題、都市と農村の対立をモチーフにしてきており、この作品でもそれが描かれる。現代中国批判がつつましく行われているのだ。

 中国は、日米独などから資本を導入しながらの社会主義建設に取り組んでいる。『タイタニック』のような、出会ったその日にベッドインってな、米帝国主義的「退廃」映画も公開されてきているのであろう。中国に、資本主義的価値観が蔓延し出している。

 年老いた母親は、父親の葬儀に使う布を自分で織ると言う。これに息子が言う。「そんなもん、買えばいいじゃん!」。使い捨て文化を受け入れた彼がそう言うのももっともだ。

 しかし、そうではないのだ。割れてしまった瀬戸物を、特別なお椀だからとムリヤリに修繕する、つまり、資本を受け入れるのに一所懸命で大切なモノを忘れてやしませんか? と問いかけているのだ。この映画も米中合作だったりするのだけれど。


 とにかく、チャン・ツィーイーが素晴らしすぎて、彼女が登場しないモノクロシーンがとてつもなく退屈に感じられ、バランスが悪いかも。前半は何かと即物的な息子が、語りを終えて、やたらと母親の気持ちを考え出すのもどうかと思うのだ。お前、何者? って感じ。

 また、コロンビア映画がこういう映画を作るのは、「アメリカのみなさん、中国人が何を考えているか分からないとか言われますが、彼らも、共感可能な恋愛をする同じ人間なのですよ」と知らしめ、中国への資本進出を円滑に進めよう、という思惑が感じられるのであるが。

 と、いうようなことは、ホントにどうでもよくて、ヘラヘラ笑いながらチャン・ツィーイーがチョコチョコ走る、それだけでこの映画は傑作なのであった。男子にはとくにオススメ。もう一回、泣きに行く! 2001 年ベストワンはコレに決まりだ!

 ちなみに、『あの子を探して』が、京都みなみ会館で 1 月 14 日〜 26 日に上映される! 朝 10:30〜の一回だけだが、お見逃しなく。もう一回、泣きに行く!

BABA Original: 2001-Jan-12;

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