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Movie Review 2000・9月19日(TUE.)

ミュージック・オブ・ハート

 クラシック音楽のすばらしさを、実話にもとづいてうたいあげる文部省特選作品の監督は、おどろくべきことに『エルム街の悪夢』、『スクリーム』というふたつの大ヒットホラーシリーズの監督、ウェス・クレーブンだ。

 なんでも、「普通の映画(アカデミー作品賞にノミネートされるような映画)が撮りたかぁ…」と思っていたところ、太っ腹ミラマックスに「なんでも好きな題材で撮っていいよ!」と声をかけられ実現した企画とか。ジェームズ・キャメロンが『タイタニック』を撮り、『死霊のはらわた』のサム・ライミがケヴィン・コスナー主演で『ラヴ・オブ・ザ・ゲーム』なるスポーツ映画を撮るのと同様、「いつまでもオタクにウケる映画ばかり撮ってても不毛?」って感じだろうか?

 主演は、『母の眠り』でなんとなく吹っ切れた感ありのメリル・ストリープ。旦那に逃げられ自立のため、ニューヨークのスラムの公立学校で、ヴァイオリンの課外授業教師となる。「ヘイ、白人の音楽なんてウチの子に教えないでよ!」と黒人の母親にののしられながらも、みごと子どもたちにヴァイオリンを教えこみ、発表会を成功させるまでが前半。

 後半は、数年成果をあげた課外授業の予算が削られることに。なんとか存続させようとする市民運動のさまが描かれる。色々苦労はあるのだが、支援を訴えるコンサートを開きましょう、女性カメラマンの知り合いがいうことにゃ、あら、ウチの旦那は世界的に有名なヴァイオリニストでございましてよ、旦那の仲間にも出演してもらえば成功間違いなしだわ、あらあら会場がダメになったの、あらあらカーネギー・ホールの総館長アイザック・スターンが協力を申し出てくださったわ、あらあらめでたし、めでたしと、トントン拍子に話が進む。

 ひっかかるのは、結局「世界的有名ヴァイオリニスト」の権威にすがって課外授業の存続がなしとげられる、という展開なので、チャリティ・コンサートの本来的な方針である「音楽教育の重要性を市民に理解してもらって市にはたらきかけよう」ってところが弱いんじゃないの? ってことだ。そんなもんそもそも無理ってことか?

 著名ヴァイオリニストの援助を受けて天まで舞い上がる主人公は、結局、権威主義的。課外授業がスラムにいかなる変化をもたらしたのか、主人公はいかに成長したのか? が存分に描かれていないから、「クラシック音楽家は人道主義的な人が多いんだよん」てなところばかりが目につくんだよね。クラシック音楽は子どもの情操教育に役立つそうだから、みんないい人ばっかりなのか? 善人を育てたければクラシック音楽を学ばせればよいってことか。ふむふむー。

 とはいえ、ウェス・クレーブンの演出は、ホラー映画やってましたとはオクビにも出さないオーソドックスなもので、泣かせる! アメリカの久本雅美ことアンジェラ・バセットが校長先生を好演。『ティナ』でティナ・ターナーを演じてた人です。ちなみに暴力亭主アイク・ターナーを演じていたのは『マトリックス』のモーフィアスことローレンス・フィッシュバーン。これは余談。グロリア・エステファンもどうでもいい役で映画初出演。なかなかよろしい。アイザック・スターンら、その筋ではビッグネームらしい音楽家もぞくぞく登場、クラシック愛好家のみなさまにはオススメ。

BABA Original: 2000-Sep-19;

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