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Movie Review 2000・7月22日(SAT.)

HYSTERIC

 1994 年に起きた「青学大生殺害事件」をモデルにしている。カップルが、車上荒らし、カツアゲなどの犯罪を繰り返した後、女の元カレのアパートに忍び込み、隣に住むサラリーマンを殺害した、と言う事件。カップルを、千原兄弟の弟、千原浩史と、『完全なる飼育』でも好演した小島聖が演じる。監督は「ピンク四天王」の一人、瀬々敬久。この人の作品を見るのは初めてである。実話をもとにしているが、もし、彼らが逮捕されなかったら、という仮定の下に 2000 年まで話が続く。

 とにかく、千原浩史のチンピラぶり、というか、ナチュラル・ボーン・ヤンキーぶりが最高、いや最低である。殺人などを犯してもなんら反省することない主人公たちを描いた映画はいくつかあるが、ここまで徹底して観客の共感をはねつける主人公というのも珍しいのではないか。

 すぐにキレてギャアギャア騒ぐ、弱い者にはとにかく偉そうな態度を取る。他人の哀しみを省みることなど一切なし。小島聖にだけは優しいかというとそうでもない。いいところ全くなし。関西人ならまだ、千原浩史がいかにヒドイやつであろうと、所詮演技と客観的に見ることができるが、千原兄弟に馴染みがない方々には、このどうしようもなさは苦痛であろう。

 一方の小島聖の行動も不可解である。本心では、逃げ出したい気持ちでいっぱいなのに、ついついヨリを戻してしまう。両親は離婚、祖父母に育てられ、紡績工場で働きながら保母さんの資格を取るべく夜学に通っていたが、偶然千原浩史に出会ったために、明日なき暴走に巻き込まれてしまう。可哀想過ぎ! 回想で、「無口な自分には良くしゃべる彼が似合っていたのかもしれません」などと語られるが、なぜ、彼女が彼と行動をどこまでもともにするのか、は大いなる謎である。

 作者は、彼らの行動を丹念に追うが、安易に分析を加えたり善悪の判断を下そうとはしない。二人の行動をセンチメンタルに流されることなくクールに見つめていく。ただ、時間軸をずらすことで、観客に事件を違う眼で見る機会を与えている。彼らが犯した殺人事件は、冒頭で描かれた時点ではまったく同情の余地のないものだが、一旦、二人の過去を追体験した後に繰り返されるそれは、彼らがそうせざるを得なかった境遇、というものを感じさせるのだ。哀しみに満ちた世界。

 とにかく千原浩史、小島聖が好演。登場人物は少ないが、脇を鶴見辰吾、寺島進、阿部寛、村上淳らがガッチリ固める。主人公たちの阿呆さに気分を悪くする人も多いと思うが、世の中にはこういう人もいるのだぞ。理解する必要はないが、存在は知っておくべきだと思うのでオススメ。7 月 26 日まで RCS みなみ会館でレイトショー上映。

BABA Original: 2000-Jul-22;

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