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Movie Review 2000・12月5日(TUE.)

ひかりのまち

 約 5 年間で『バタフライ・キス』『日蔭のふたり』『アイ ウォント ユー』『ウェルカム・トゥ・サラエボ』を続々と製作した多作な監督マイケル・ウィンターボトムの新作。そのすべてと TV ムーヴィー『GO NOW』までもが日本公開されているということは、日本でも人気があるのだろうか?

 イギリス映画といえばケン・ローチ、マイク・リーなど「ブリティッシュ・リアリズム」ともいうべき労働者+失業者のどうしようもない生活を情け容赦なく描く系譜があり、M ・ウィンターボトムもその上に位置している。リアリズムというにはちょっと甘いかな? と思わせといて、ズズーンと落ち込ませるのが気色よく、近年ボクが注目している監督だ。というか、たまたま日本公開作を全部見逃していないのを嬉しがってるだけなんですけど。

 今回も、『ひかりのまち』てな日本語題名、では原題はというと『Wonderland』=「不思議の国」、うう、これは痛いかも? しかも音楽はマイケル・ナイマンだってよ、と思わせといて、やっぱりこれまで同様、なんともキューッと来る映画。そうなんである。ウィンターボトムの作品すべてに、キューッと来る瞬間が必ずあって、今回もキューッと来ました。伊達にウィンターボトム=「冬のどん底」などと名乗ってません。関係ないか。

 登場するのはロンドンの労働者階級諸君で、みんながみんな、対人関係上の欲求不満をつのらせていて、なんとも人間というのは本質的には孤独であるよなあ、と思ったり。キミら、もっと楽しい生き方を学べよ、と言いたいところだ。

 物語が進行するにつれ、彼らはひとつの家族の構成員であることが明らかになってくる。家族が完全に崩壊した後、いかに孤独とつきあうべきか、との考察でもある。いかに孤独であろうと生きていれば、大いなる喜びを感じる瞬間が訪れることも、ある(訪れないこともある)。その瞬間、世界は「ワンダーランド」と化す。欲求不満がうずまいていて、ゲンナリするがラストは爽やかだったりするな。じわーんといい映画。

 脚本家は『ショート・カッツ』の影響を公言しており、複数の男女が少しづつ関わりを持ちながらそれぞれのドラマが平行して語られる、という形式。『マグノリア』『ハピネス』と同じ趣向。ウィンターボトム、お前もかい! と思ったが、『マグノリア』『ハピネス』の、なんかイヤーな感じとは無縁。違いは根底にある思想の問題というか、いちびらずリアリズムに希望を持つ、というか。

 撮影は 16mm でおこなわれ、35mm にブロウアップ、さらに全編、無照明のロケ撮影、高感度フィルムを使用しており、画面の粒子がやたらに粗いが同時に美しくもある。ちょっとラース・フォン・トリアー風。配役は地味。『ことの終わり』にも出ていたイアン・ハートがノー・フューチャーなサッカー好きオヤジ役で出てる。おっと意外にもマイケル・ナイマンの音楽がたいそういいのでオススメだ。

BABA Original: 2000-Dec-05;

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