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 Diary 2005年5月19日(Thu.)

人体の不思議展/香港国際警察

 京都文化博物館に「人体の不思議展」を見に行く。これは文博始まつて以来の大ヒット展らしく、確かにチケット売り場が別に設けられてゐたりしてその盛況振りが窺へるが、内容的にはさう大したものではなく、予想の範囲を超えるものではなかつた。いまどき、各種メディアを通して人体の内部ぐらゐ、知れ渡つてゐるだらう? 周りの若者たちのコメントも、「まるで『北斗の拳』だな」「いや、『AKIRA』よ」「『マトリックス』ッて感じ?」「わー、あれ、『マーズアタック!』ね」と、こんな感じ。さらに「美味さうー」「あれ、昨日、焼肉屋にあつたよな」などと言ふものまであつたが、ま、言いひさうだよね。チョイと面白かつたのは、「脳の重さを体感しやう!」といふコーナーで、脳味噌を持つたこと。こ、これは……危ない、危ない。危うく一句詠むところであつた。

 夜はみなみ会館で『香港国際警察』を観る。この映画はジャッキー・チェンの最新作であるが、ジャッキーの映画は不入りのお荷物映画だから、といふ理由で京都での上映が見送られてゐたものを、RCSのサトウさんが救い出してみなみ会館で上映した、といふ曰く付きの代物である。そのサトウさんの行為がいかに正しかつたか、を痛感させる傑作アクションムービーであつた。

 私はそれほど熱心なジャッキーファンではないのでよく分からないのだが、熱心なジャッキーファンであるババさん・ヤマネくんが「ジャッキーが帰つてきた!」といふ通り(実際、ハリウッドから香港に帰つてきてゐる訳ですが)、正に「帰つてきた!」といふ感じがプンプンと漂ふ作品である。なにかとんでもない熱量が籠もつてゐる。私は、「おおー!」と叫び声を約10カ所であげ、同じく約10カ所で泣いた。あんまり泣いて顔が酷くなつてしまつたであらう事をおそれ、パンフレットが買ひたかつたのだが、そのままそそくさと逃げるやうに劇場を出てしまつたぐらゐである。あんまり泣きすぎるのも考へものだ。

 とまァ、素晴らしく楽しい時間が過ごせた傑作娯楽映画であつた訳だが、違和感がなかつた訳ではない。先程も述べたやうに、私は熱心なジャッキーファンではないので敢へて言ふのだが、ジャッキーのキャラクターに対する違和感である。いみじくも、ヤマネくんが前に私に語つた言葉が頭に浮かんだ。「ジャッキーはねー、人を殺さないんですよ!」。さう、ジャッキーが人を殺さないのだ。しかし、この映画でそれは無理があるんぢやないか?

 この映画の犯人たちは、大金持ちのどら息子・娘たちで、人生に退屈し、「人生はゲームさ」てな具合にニヒリストを気取つたバカどもである。彼・彼女らは、ゲームとして警察官を殺す。ヒラなら何点、警部以上を殺せば何点、といふ具合に決めて警察官たちをなぶり殺し、それをネットゲームにして世界中に流す、といふ悪趣味なことをやつてゐる。全くなんの同情の余地もないバカガキどもなのである。そのバカどもに、ジャッキーは、最愛の部下たち9人を、それこそ本当に酷いやり方で全員なぶり殺される。それなのに、ジャッキーはこの犯人たちを殺さないのである! それどころか、最後にSWATに包囲された犯人たちのために、命乞ひまでするのだ。「彼らを殺すな! 俺はもう死人は見たくない!」とか言つて。

 これはどうにも気持ち悪い。ハリー・キャラハンなら、もうボンボン頭吹ッ飛ばしてるよ。銛で串刺しにするとか。それぐらゐやられて当然の連中である。犯人のボスの最後なんて酷かつた。お金はふんだんにあるが愛に飢ゑてゐる、といふ設定のやうで、父親の前で泣きながら、自殺のやうな形で死んでいくのだ。なんだそれは!!!

 ツァラトゥストラもかう言つてゐる。「敵があなたがたに加へた悪に対して、善をもつて報いるな。なぜなら、それは敵に恥づかしい思ひをさせるだらうから」「我が身に、ひとつの大きな不正が加へられたら、さつそく五つの小さな不正の仕返しをするがいい! ただひとりだけが不正に虐げられてゐるのを見せられるのは、たまらない!」全く、ジャッキーのやり方はみてゐて「たまらない!」。見やうによつては、ジャッキーは敵に恥づかしい思ひをさせ、その事によつて敵は自殺(のやうな死に方)をしたともとれるのだけれど、さうすると、ジャッキーは卑劣な偽善者、といふ事になる。ま、正直そんな風には見えないので、「違和感」が残るのだ。

 とまァ、チョイと文句をつけてしまひましたが、この映画が圧倒的に面白いのには変はりがないので、是非「みなみ会館」にて観ることをオススメします。(ッて、もう上映終はりか!)

小川顕太郎 Original: 2005-May-23;