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 Diary 2002・5月9日(THU.)

アメリ

 朝日シネマに『アメリ』(ジャン=ピエール・ジュネ監督)を観に行く。日本におけるミニシアター系の映画としては史上最高、30 億円の売り上げをあげているという大ヒット作。らしい。最近の大ヒット作には碌なものはない、という、半ば正しい偏見ゆえに、私は観に行くのを渋っていたのだが、トモコに「面白いに決まっているじゃない!!」と言われ、しぶしぶ観に行ったのだ。

 ところが! これがなんとなかなか面白い。確かにラストは「あれ?」という感じだけれど、それ以外はいいじゃないか。ここはひとつ、少女評論家のトモコに感想を訊いてみることにしよう。

「そうねー、なんといっても前半が圧倒的に素晴らしいわね。」

 ほう、ちなみに前半とはどこらへんまで?

「それはもちろん、ニノが振り返って『この写真は君だろ?』って言うところまでよ。あそこでアメリは恋に落ちるのよ。で、だんだんダメになっていって、あのトホホなラストに至るの。これは常識だと思うのだけれど、恋の始まりは少女の終わり、なのよ。それまでは純粋少女で、周りの人達に残酷な意地悪を繰り返してきたアメリが、あそこで少女から抜けちゃう。あそこまでが、最高なのよ。」

 えー、でもパンフレットなどによるとですね、アメリは周りの人達を幸せにするために小さな悪戯を繰り返す、と解説してありますが…。

「は? 何言っているのよ。アメリがいつ他人の幸せなんか願ったのよ。好きでもない二人をくっつけたり、ありもしない奇跡が起こったふりをしたり、要するにあれは子供が食虫植物に虫をやったり、蟻塚を壊したりするのと一緒よ。自分の全能感を満喫しているの。あんな傲慢で残酷な悪戯はないわよ。そんな事言っている人って、目が節穴なんじゃない?」

 ええ、私もそう思うんですが、でも、監督も同じ様なことを言っているんですが…。

「それは監督の冗談でしょ。ああ、そうね、きっとラストはプロデューサーかなんかに文句を言われて撮り直したのよ。まるでやる気のない、気の抜けたラストシーンだったもの。きっと取り直しさせられた事に対する当てつけね。」

 なるほど。では、本当のラストシーンは、どのようなものなのでしょうか。

「もちろん! モペットで走り回るアメリとニノが、トラックにグチャッと潰されておしまい! それが最初のシーンの、車にひかれて潰れるハエと呼応しあって、完璧なラストになるんじゃない。それ以外のラストなんて、あり得ないわよ。」

 うーん、それは是非、アメリのディレクターズ・カット版を観てみたいものです。しかし、なんでこの映画はこんなにヒットしたんでしょうか? 肝心なラストシーン(アメリとニノが轢き殺される)が抜けているのに。

「…っていうか、肝心のシーンがないからヒットしたんでしょう。肝心なシーンがあっちゃダメなのよ、きっと。こんな事を言い合っている私達がやっているオパールも、この肝心なシーンみたいな店だから…。」

 ガーン!! そういうオチか!!

 アメリ、恐るべし、です。

小川顕太郎 Original:2002-May-10;