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 Diary 2001・2月14日(WED.)

パンと植木鉢

 みなみ会館にモフセン・マフマルバフ監督『パンと植木鉢』を観に行く。モフセン・マフマルバフは、イランで最も高い人気を誇る監督のひとりらしく、世界的にも各地の映画祭で数々の賞を受けるなど評価は高い。が、これまで日本で正式に劇場公開されたことはなく、今回が初の劇場公開とあって、当然わたしはこの人を知らなかった。

 それが何故観に行ったのかというと、ババさんの強力な推薦による。「最高! 最高! 絶対に観に行って下さい。必ず気に入ります」とまで言われたら、観に行かないわけにはいかない。で、観に行った。良かった。確かに私好みの映画であった。

 これはパンフレットを読んで分かったのだけれど、モフセン・マフマルバフは映画を撮る前に、すでに作家として活躍していたらしい。かつ、若い頃は政治活動に身を投じており、4 年半にわたる獄中生活も体験している。

 それで、なるほど、と思ったのだが、私はこの映画を観て、「パゾリーニっぽいなあ」と思ったのだ。パゾリーニも、映画を撮る前に、すでに作家・詩人として活躍していたし、生涯にわたって政治活動に積極的だった。つまり、両人とも純粋な映画人というよりは、なにかを強力に表現・実践していた人が、たまたま映画を撮った、という所が似ているのだ。両人ともいわゆる映画的文法を顧慮しないし、なにかそこらへんの映画とは違う、映画的洗練とは無縁なゴリ? とした感触が似ている、と私には思われた。この感触が、私は大好きなのだ。

 この『パンと植木鉢』は、自らの若き日を映画に撮る自分を映画に撮る、というメタ映画になっているが、それが非常に分かりやすく描かれている。時間のずれを利用した多視点の導入や、素人を役者に使うところ、政治的な視点や映画に対する原理的思考、異化作用の意識的な使用など、ゴダールを彷佛とさせるところもあるが、ゴダールとの最大の違いは、モフセン・マフマルバフはイランで最大の動員数を誇る人気監督だというところだろう。

 彼の新作が映画祭で発表されると、それを観に来るお客さんで暴動が起るというのだから凄まじい。まあ、イランでは映画祭の時に検閲が行われ、そのまま国内では上映禁止、という作品もあるらしく、このモフセン・マフマルバフの作品は特に上映禁止が多いので、なんとか映画祭の時に観ておきたいと、人々がつめかけるのだろう。それにしても、凄まじい人気だ。このような前衛的ともいえるような作品を撮ってこの人気。これはモフセン・マフマルバフが偉いのか、イランの人々が偉いのか。

 他の作品も全て観たくなったが、時間的に無理だろう。残念。またいつかモフセン・マフマルバフ特集を、お願いします。とりあえず、明日は『サイクリスト』を観に行きまーす。

小川顕太郎 Original:2001-Feb-9;