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 Diary 2000・5月17日(WED.)

盗作疑惑

 ババさんが「これ面白いですよ」と言って、今月号の『噂の真相』に載っている「平野啓一郎の盗作疑惑」という記事を見せてくれる。平野啓一郎の芥川賞受賞作品『日蝕』が、佐藤亜紀の『鏡の影』の盗作ではないか、といった内容のもの。

 別に佐藤亜紀は『日蝕』を読んでも怒りもせず、周りが騒いでいるのに対して「どうやって庇ってやろうか」などと考えていたらしいのだが、両著書の版元である新潮社が、盗作疑惑が囁かれ始めた途端に『鏡の影』を絶版にすると言ってきた事、佐藤亜紀の新連載の約束を反故にして平野啓一郎の作品を掲載した事、などから堪忍袋の緒が切れ、新潮社と絶縁するに至ったという。

 それにしても新潮社も馬鹿である。平野啓一郎なぞ少々才気走ったオタクといったところで将来はかなり不安だが、対して佐藤亜紀は将来を嘱望される現在数少ない実力を持った書き手ではないか。確かに佐藤亜紀は売れていないだろうが、いくら経営が苦しいからと言って、平野啓一郎なんかと天秤にかけるとは。これは新潮社の愚行のひとつとして語り継がれるでしょう。

 ところでその盗作疑惑の方だが、平野啓一郎の『日蝕』は他にも種村の『黒い錬金術』やエーコの『薔薇の名前』などからもパクッているのでは、と言われ続けているという。私は『日蝕』を読んでいないけれども、まあ、パクッているだろうと思う。そしてその事自体は、佐藤亜紀ではないが、別段非難する事ではないと思う。

 中世の錬金術師の話を書くのなら、当然『薔薇の名前』や『黒い錬金術』あたりは参考にするだろうし、それをパクる形で使っても、要はオリジナルなものになっていればそれで良いのだと思う。ヴァレリーも言っていたが、独創性とは「胃袋の問題でしかない」のだ。たぶん平野啓一郎は胃袋が弱かったのだろう。胃弱の人の吐く息はくさい。そういう事でしょう。「盗作問題」とは倫理の問題ではなく、体力の問題だと私が思う所以です。

 ちなみに福田和也の『作家の値打ち』によると、平野啓一郎の『日蝕』は 42 点。「何とか小説になっている作品」というランクづけでした。

小川顕太郎 Original:2000-May-19;