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2005年11月16日(Wed)

ALWAYS 三丁目の夕日 ☆☆☆☆★★

Text by BABA

 携帯もパソコンもTVもなかったのに、どうしてあんなに楽しかったのだろう。答え:携帯もパソコンもTVもなかったから。ババーン! 

 西岸良平の、ビッグコミックオリジナルでえんえん連載中(30年以上ですか!)マンガを、『ジュブナイル』『リターナー』も、なかなかに面白かった山崎貴監督・脚本・VFXで映画化。

 その前日に『春の雪』という前代未聞、ピンボケ(に見える)映画を見た後ならば、どんな映画を見ても、ピントがあっているだけで感動してしまうのであろう、私は……と思いつつ、映画の冒頭、少年たちが昭和33年の下町(ですよね?)を駆け、ビャーッと飛ばした模型飛行機の向こうには、建設中の東京タワー、そして路面電車が走る町並み。また、蒸気機関車の窓外には、ビルがまばらな東京の風景が広がっている……みたいな、ヴィジュアルセンス、映像の躍動ぶりに茫然と感動してしまいました。『春の雪』を見た後では。

 て、いうか、原作マンガは私もチョコチョコ読んでおり、あらためて映画の元ネタ12編を集めた『三丁目の夕日 特別編』を読みますと、いくつかのエピソードをうまいこと組み合わせて、さらにひとヒネリ加えて「もっと面白く!」と工夫の跡ありあり、映画全体で「失われた家族の幸福とは?」を描き出す脚本が見事でございますね。

 実際の昭和33年は、戦争の傷跡がもっと色濃く、陰惨な雰囲気だったことを、今の若い人はご存じないでしょうが、…って実は私も知らないのですが、この映画は実際の当時がどうであったか? にはあまり関係なく、というか、山崎貴監督が持つSFテイストが感じられて「存在したかもしれないもうひとつの日本」が、映画の中に現出するのであった。

 小さな自動車修理工場を営む堤真一の一家と、住み込み工員ロクちゃん、そのお向かいには文学青年・茶川竜之介(吉岡秀隆)が営む雑貨屋、そこを中心に、まるでイタリア映画のように活気あるご近所コミュニティが描かれて、小津安二郎『お早う』なんかも彷彿とした私なのですが、この、素晴らしく美しいご近所コミュニティ、そして家族の幸福を破壊したものは何か? と、尋ねるならば、それは何をおいてもまず、テレヴィでありましょう。

 家族の幸福とは? それは疑似家族であっても、家族三人で仲よくカレーライスを食べることであります。そんな小さな確かな幸福を、テレヴィは破壊。

 映画の中盤、堤家にテレヴィがやってくる! というので町内総出で力道山の勇姿を観戦する場面がありますが、このとき、日本の美しい家族たちは、その「家族」というものが絶体絶命のピンチにあることを誰も気づかず、空手チョップに歓声を上げる…。

 しかし、テレヴィは一瞬で故障してしまいます。日本の美しい家族は危機を脱し、すべてが丸く収まるハッピーエンドへなだれ込んでいくのであった。

 茶川家いそうろうの淳之介少年は、「勝ち組・大会社の社長令息」か、「負け組・貧乏文士宅の居候」か? という選択を強いられますが、もし、あのとき、テレヴィが故障していなければ、迷わず「社長令息」としての人生を選んだに違いない…。

 …って、よくわかりませんが、巨大テレヴィ塔=東京タワーが完成した瞬間から、日本人の幸福はどんどん壊れていくのであり、東京タワーのバックに沈む夕日は、不吉な美しさに充ち満ちていたのであった…。「50年後」には、夕日はまるで違うものになっている、というか、家族3人で夕日を眺める者は存在せず、夕日は消滅してしまった…。

 …って、ますますよくわかりませんが、キャラクターのイキイキとした、すさまじい躍動ぶりに目を瞠りました。『春の雪』を見た後では。いや、『春の雪』を見ていずとも、堤真一が怒髪天をつき「フンガー!!」とガラス戸をぶち破るシーンは大笑い、また、吉岡秀隆のバタンキューな気絶っぷりや「え! なんだって!?」の白々しさ、あるいは「馬鹿には見えない指輪」をジッと見つめる踊り子・小雪、さらに淳之介と一平ら少年たちが最高、魅力的なキャラが満載、ぜひ、テレヴィシリーズにして欲しい感じですね! 

『春の雪』を見て日本映画に絶望した後にご覧いただくと、絶対、最高に面白いはず! って、そうでなくても、客席の半数以上が埋まった京都宝塚劇場、大勢の観客が、同じ場面で爆笑し、同じ場面でさめざめと涙を流す、これもまた日本人が失った幸福な瞬間を『ALWAYS 三丁目の夕日』はよみがえらせるのであった。バチグンのオススメ。

☆☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

公式サイト: http://www.always3.jp/
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Comments

投稿者 sakurai : 2005年11月16日 20:23

絶対に見る順番、間違えましたね。
いやーー、「春の雪」・・・・どうしたら言いか分からなくなるほどのむごさで、心して行ったはずなのに、なんとも表現しがたい。それをよくまあ、言い当ててくださいました。すっきりしました。あんまりすっきりしたので、私は無言のままでいようと、決意したほどです。

で、サンチョメ。そうですね、結局は別の世界なのかもしれませんね。でも、日本人のDNAを思い起こさせてくれました。クレヨンしんちゃんくらいの感激でした。

投稿者 BABA : 2005年11月17日 00:47

>sakuraiさん
コメント+トラックバックありがとうございます!
『春の雪』→『Always三丁目の夕日』という流れは、我ながら最高! と思っているのですが、その逆とは……ガクガクブルブルです。

でもですね、たまたまかもしれませんが、『春の雪』を見た後に、見る映画、見る映画、すべてが素晴らしく面白い!! のです。こんなに、何本も何本も、最高に面白く見ることができるのは人生始まって以来か? というくらいで、映画の面白さというものをあらためて思い知らせてくれた『春の雪』に、大感謝です。

という感じで、『Always三丁目の夕日』後に『春の雪』を見たsakuraiさんは、私以上にアフター『春の雪』をお楽しみいただけるのではないか? と思いまーす。

投稿者 sakurai : 2005年11月18日 09:11

おかげさまで、何の色眼鏡もかけずに、素直にサンチョメ見ることができました。これは是非うらやましがってください。

行定さんという人はよく分からない。北・・・もずっこけましたが、ここまで来るとある意味凄い人のように思えてきました。

投稿者 baba : 2005年11月21日 12:06

sakuraiさん、こんにちは。
いや、それはまったくうらやましい限りです。私などは、色眼鏡かけまくりでしか映画を見ることができません。

特に『三丁目』、UVカット100%の色眼鏡で見てしまいました。なぜなら、その夕日は、あまりにもまぶしすぎたから…。

何をポエジーなことを書いているのかよくわかりませんが、行定さん、『きょうのできごと』→『北の零年』→『春の雪』と、確実に、着々と前作を越えていってますね。いったいどこまで行くのか、新作がめちゃめちゃ楽しみです。

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