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Movie Review 1999・10月18日(MON.)

クンドゥン

 マーティン・スコセッシ監督。アメリカでは賛否両論、あんまりヒットしなかったようで、京都は朝日シネマというチビッコ映画館での公開という不幸な公開のされ方をしてしまいました。しかしながらこれは小さいスクリーンで見ても最高に素晴らしい映画。

「クンドゥン」とはダライ・ラマの尊称。第 14 代、ダライ・ラマが発見され、成長し、中国の侵略と戦い、インドへ亡命するまでを描く。どうもアメリカではビースティ・ボーイズが中心になってチャリティ・コンサートが行われるなど、ダライ・ラマブームというものが起こっているようだ。余り知られていない(と思う)チベット現代史のお勉強になるし、侵略する側の中国・毛沢東が実に気色悪く描かれ、中国の侵略がどういうものであったか? もよくわかった気になれる。

 こういう固いことを書いていると、あんまりおもしろくなさそうなんだけど、さすがは『グッド・フェローズ』あたりから「コイツ、映画の文法を研究しまくってるな?」の感がある M ・スコセッシで、もう、100 時間でも見ていたいと思うくらい映像・編集が気持ち良いのである。音楽は『コヤニスカッツィ』なんかのフィリップ・グラス、撮影はロジャー・ディーキンス(『ビッグ・リボウスキ』、『ファーゴ』なんかの人ね)。「ソニー・プレゼンツ世界遺産・チベット・2 時間スペシャル」って感じだ。テレヴィ放映の際は絶対、緒方直人のナレーション付きで放映してもらいたい! とか思う(見ないと思うけど)。いっぱつキメて見たらトリップできそうなのに、なんでアメリカでウケないのだ?

 チベットロケが出来ないからってんで、モロッコかどこかで撮影したらしいが、もう、どっから見てもチベットである(って行ったことないんだけど)。コンピュータ・グラフィックスってなあ、ホントたいしたものですね。

 素晴らしいのは「この子どもがダライ・ラマの生まれ変わりか否か?」を判定するシーンの描き方だ。確か『リトル・ブッダ』でもその辺の事情が描かれていたが、輪廻転生を信じるチベットの僧たちは、ダライ・ラマが死ぬとその生まれ変わりを探して世界を旅する。で、「こいつが怪しい」という子どもを見つけたら、ダライ・ラマの生前の持ち物と全然関係ないものを渾然と並べて、子どもに「あなたの持ち物を選んでちょうだい」と選択させる。見事ダライ・ラマの遺品を選んで「これはボクんだよ〜」と子どもが言ったら、「その子ども=ダライ・ラマの生まれ変わり」の証明になるというもの。

 で、この映画はダライ・ラマの物語だから当然、子どもは遺品を正しく選択するんだけど、M ・スコセッシは、子どもがダライ・ラマの遺品を自らの「前世の記憶」に基づいて選んでいるのでなく、どう見ても「選ばせている僧の顔色」をうかがいながら選んでいるように演出している。つまり M ・スコセッシ自身はダライ・ラマの思想なりに大いに共感しつつも、その宗教の説く輪廻転生なんちゅうものをハナッから信じていないわけで、思わず「おおっ!」と力が入りました。こういう宗教色の強い題材を描く場合、ついつい神秘的なところに話を持って行きがちなんだけど、さすが根はパンクな心根の持ち主と見受けられる M ・スコセッシ、偉い。でも、映画製作にあたってダライ・ラマ本人に詳しく取材した、ということなので、ダライ・ラマ本人が輪廻転生なんて信じていないのかも知れないけれど。

 あ、そうそう、M ・スコセッシってなあ、最近作はタイトル・デザインをソウル・バスに発注していて、常にイカしたオープニングなんだけど、ソウル・バスが死んぢゃってどうするのかな? とか思っていたら、この作品はバルスマイヤー&エヴェレットが担当していました(『デッドマン』などジム・ジャームッシュの作品はたいてい担当)。これ見よがしではないものの、「これぞタイトルデザイン!」って感じですね。

 あ、そうそう、小規模な公開なれど、パンフは印刷、紙質に変にこだわった巨大 1000 円パンフだ。おまけに変な紙を使って「無線綴じ」(印刷用語です)なもんだから、ベリッとページがはずれちゃったぢゃないか。もう、ええ加減にしてくれ〜!

BABA Original: 1999-Jan-18;

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