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2009年07月23日(Thu)

「色彩の記憶」 ☆☆

Text by Matsuyama

ヘアカラーのスペシャリスト、西陣織の匠、有田窯の陶工という3編からなるドキュメンタリー作品です。製作は大手美容材料メーカーであるミルボンという会社であることから、最初のパートは業界の宣伝のために作られたようです。私も美容師のハシクレという立場上、このパートには看過できないものがあります。

織物と繊維の染めや陶磁器の釉薬の技術は何百年、または千年単位で培われた、計り知れない経験の積み重ねから成っており、それには自然との関わりが非常に大きな役割を果たしていることがわかります。

ヘアカラーの歴史は数十年程度ですが、色調がコントロールし易くなったのはここ10年前後のことです。これはヘアカラーの世界では発展ということなのでしょうが、いつまでたっても自然界からは遠ざかったままです。
私たちの仕事はパーマ液やカラー剤といった有害物質を生活排水として流さなければ完結しません。自分を美しくするという個人的なことで、そういったリスクがつきまとうのです。そもそもそれは人間の持つ自然の美を否定するところから始まります。特に日本人の持つ黒髪が美しいということは世界的に認識されていることです。老いること、皺、白髪に対して否定的なことも美容業会が創りだした概念です。カラーリストの言う「女性の美しさ」とは創られた概念であり、歴史の中で伝えられてきた「日本の美」、「自然の美」ではなく、非常に個人的で人工的、商業的なものです。髪を美しくする為にダメージを受けるという矛盾した世界です。
こういうことを語るのは私自身もリスクを背負うわけですが、業界すべてが「本当に美しいものは何か」を考えなければならない時代はおそらくもうすぐやって来ます。それを真剣に考えることが今の美容界の最先端だと思うのです。

第二次大戦後いきなり転覆してしまった日本人の価値観は間もなく再び元に戻ることでしょう。
話はそれますが、1951年、芸術家イサムノグチは45歳にして33年ぶりに日本を訪れました。そして日本の美術界を見たとき、日本人の芸術家たちがヨーロッパの文化ばかり意識し、日本人としての美意識が失われてしまっていることに愕然としたといいます。来日中のイサムは魯山人から陶芸を学び、京都の織物、香川の石工に大きく影響を受けました。日本の伝統工芸は、長い年月をかけて受け継がれて来たのでした。そして、それこそが世界が注目する「日本の美」なのであります。

2007年、105歳でこの世を去った西陣織の巨匠、山口伊太郎は70歳から「源氏物語絵巻」の制作を開始します。織ることができるのは1日に3センチが限界という、それはそれは非常に繊細で重厚なものです。そこに染工さんや箔やさんが共に力を貸し、独自の色やプラチナの箔が生み出されました。

有田窯の陶工、馬場真右ェ門は辰砂(しんしゃ)といわれる、ルビーのような深い紅色を出すことに苦心します。熟練した職人でさえ、安定した色を出すことが困難とされた辰砂が後に真右ェ門窯の代表作となるまでが描かれます。

長い歴史の中で培われ、今後も伝えられるであろう、これら2編がこのドキュメンタリー映画のすべてで良かったはずなのですが、ひとつ目が先のような個人的商人(あきんど)根性を見せられることで後の2編がなんとも心地よくないんです。だからといって3つ目にきたとしてもそれはそれで後味が悪いということなんでしょうが、とにかく他の2編が素晴しい。カラーリストのパートは長いCMとして観ていただきたいものです。

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