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 Movie Review 2005年1月27日(Thu.)

マッスルモンク

 坊主、マッスルで業(カルマ)を断つ! バババババーン!

『バレット・モンク』の「そこの坊主、まるで弾丸!」に続き、弥生座[モンク・シリーズ]…なのかどうかは知りませんが、まったく身震いするような宣伝文句ですね。

 それはともかく筋肉ムキムキ、人気男性ストリッパー“ビッグ・ガイ”(アンディ・ラウ)、ステージで調子に乗ってすっぽんぽーん、すると潜入捜査官・女性刑事リー(セシリア・チャン)に逮捕されそうになって、香港の街をすっぽんぽんで逃げ回る! …と、立ちくらみするような発端。

 筋肉ムキムキは、ハリウッド特殊メイク工房の力作だそうで、着ぐるみ感が満点、これはとんでもないアホ映画かーー?

 …と思いきや、以下ネタバレですが、“ビッグ・ガイ”は、かつて武僧として修行を積み、ある事件がきっかけで人が背負う[業(カルマ)]が見えるようになって還俗、都会で享楽的な生活を送っています。

 その、カルマが見える特殊能力駆使して、女性刑事リーと謎の殺人事件を解決する…という、最初の犯人は「一斗缶」の中に隠れていて、ぬぼっ、ぬぼぬぼぬぼっと登場するあたりは、『ジョジョの奇妙な冒険』風というか、江戸川乱歩調の猟奇ミステリー感漂って最高に面白い!

 監督はジョニー・トウ+ワイ・カーファイ(兼脚本)。私、恥ずかしながらこの『マッスルモンク』が初見、わが身の不明もひとえにカルマの因縁かーー!? と、つい思ってしまうほど、娯楽映画の枠組みに仏教思想が見事に織り込まれ、キリスト教プロパガンダ映画は山のようにありますが、これからは『マッスルモンク』そして今年『カンフー・ハッスル』、仏教プロパガンダ時代の到来を予感させるのでした。

 さらにネタバレですが、物語は驚くべき展開を見せ、『カンフー・ハッスル』同様、「報復の連鎖をいかに断ち切るか?」のテーマが、…って最近そんな映画ばっかりというか、私が我田引水的にそんなテーマを勝手に見て取っているだけかも知れませんが、やはり、救いは仏教にこそあり! 何者かを憎む復讐心を人は徹底的に見つめ、仏(自分の心)と対決しなければならないのですね。後半、観念的な世界に突き進む展開に軽いめまいを覚え、仏教講話・法話風の結末に荘厳なる感銘を受けました。

[筋肉]とは、「自己愛」の物質化であり「自己防衛」の鎧、その筋肉を脱ぎ捨て、旨そうに煙草を吸うアンディ・ラウの姿に私は茫然と感動したのでした。

 しかしまあ、超阿呆なオープニングから、仏の境地に至るラストまでの、なんたる振幅の大きさでしょうか。魔術的と言ってもよいでしょう。こんな映画があったとは! これまでジョニー・トウ+ワイ・カーファイ作品を見ずして、現代の映画をレビューするのは間抜けであった! と私は自嘲気味に、ちょいと座禅でも組んでみようかしらんと一人ごちました。

 ところで女性刑事リーも消しがたいカルマを背負っており、それは何と! 前世は日本兵、どうやら中国人をウハウハ虐殺した…というもの。「日本兵が生首を持ってウハウハ笑う」シーンが何度も挿入される反日プロパガンダぶりにも軽いめまいを覚えました。困ったものですが、中国での[日本兵]は、欧米における[ナチス・ドイツ]のような、手っ取り早く「悪」を表象する記号であるのですね。うーむ。

 後半は好き嫌い分かれると思いますが、前半、「女が男を助ける。片腕のない女を捜せ!」…みたいな、仏教探偵っぷりが素晴らしいのでバチグンのオススメです。

☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA
Original: 2005-Jan-25;