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 Movie Review 2005年1月20日(Thu.)

イブラヒムおじさんとコーランの花たち

 ほら、人生はすばらしい。ババーン! パリの裏町、父親と二人暮らしのユダヤ人少年モイーズと、小さな食料品店を営むトルコ移民・イブラヒムおじさんの、魂の交流を描くハートフル・ヒューマンドラマでございます。

 ご近所には売春宿があって、主人公モイーズは13歳の誕生日に貯金箱をたたき割り、おじさんの店で小銭をお札に交換、売春婦に勇躍と声かけ、いざ初体験! …というのがオープニング。

 バックにはポップミュージック流れ、1960年代フランス青春グラフィティの趣です。裏町に映画のロケ隊がやってきて、ブリジット・バルドオ風の女優(イザベル・アジャーニだったりする)がおじさんの店に水を買いにやってくる、みたいな情景も面白く、貧乏ユダヤ人、トルコ移民、売春婦たちが主要な登場人物の、フランス下町の雰囲気がよい感じでございます。

 とにもかくにもイブラヒムおじさんのキャラが素晴らしく、圧倒的です。少年モイーズは、あれやこれやと人生の苦難・悲しみに見舞われますが、イブラヒムおじさんが漏らす助言・箴言が最高です。

 少年モイーズ問うて曰く「どうしておじさんは色んなこと知ってるの?」

 おじさん「わたしはコーランに書いてあることしか知らないよ」

 あるいは失恋したモモに…

 おじさん「君への彼女の愛が消えたとしても、彼女への君の愛が消えたわけじゃない。彼女への愛は、君だけのものだ!」

 …など、少しトンチが効いた、深い信仰に裏付けられた、含蓄あるセリフがバンバン登場します。原作・脚本のエリック=エマニュエル・シュミットは色んな宗教に造詣が深い哲学博士だそうで、さもありなん。

 少年の成長をおじさんが見守るのは『ニューシネマ・パラダイス』風ですが、イブラヒムおじさんのセリフには、さながら禅の高僧/カンフー・マスターの言葉の雰囲気が漂います。

 たとえばブルース・リーの「考えるな! 感じるんだ!」「指を見るでない! 指先にこだわると、その先にある美しいものを見失ってしまう!」みたいな言葉に感銘を受けた、カンフー映画好きの方にも『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』をオススメしたい。

 また、パンフレットで佐藤忠夫氏も書かれておられますが、パレスチナやらイラクで異なる宗教がいがみあう世界情勢に対し、わかりやすく、声高でなく、鋭くモノ申しているのも素晴らしいです。

 おじさんはコーランを最高の教典としていますが、「イスラム教徒ではなくスーフィーである」、といいます。

「スーフィー(イスラム神秘家)」は、戒律よりも心のあり方を重んじる、イスラム原理主義者と対立することもある宗派だとか。戒律がきびしくないので、おじさんはカフェーでお酒を飲んだりするし、礼拝もたまにしかしないみたい。ふむ。

 主人公の名モイーズは、「十戒」のモーゼのユダヤ名、おじさんは親しみを込めて「モモ」と呼ぶ。「モモ」は、イスラム社会では「モハメッド」の愛称、親しみをこめて呼べば、モーゼもモハメッドも違いがなくなってしまうわけで、そんな感じで物語のあちらこちらに「宗教の違いで対立することの愚かしさ」「宗教の本当の効用」が含意されている、と見ました。

 やがて物語は、パリーの下町を離れ、遠くトルコの「黄金の三角地帯」へ向かうロードムーヴィーに転じます。ギリシャ正教、カソリック、イスラムのモスク、スーフィー、各国各宗教の祈りの場を巡った後、旅は唐突に終わり、おじさんとの別れが訪れます。これがなかなか淡々としており、まさしくおじさんのキャラにふさわしい別れであるなあ、と私は茫然と感動したのでした。

 イブラヒムおじさんを演じるのは、ばっちりはまり役のオマー・シャリフ。最高!! ですね。これからは「『アラビアのロレンス』の…」ではなく、「『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』のオマー・シャリフ」と呼ぶべし。モモはこれがデビュー作のピエール・ブーランジェ、好演。

 宗教の違いで争う者は、イブラヒムおじさんの言葉に耳を傾け、かみしめよ! と、私は声を大にして言いたい。バチグンのオススメ。

☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA
Original: 2005-Jan-19;