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 Movie Review 2005年2月4日(Fri.)

スパイ・バウンド

公式サイト: http://www.spybound.jp/

 私を奪い返す。実在の女スパイが明かした闇からの生還。ババーン! オープニングカットは月の裏側、カメラは月を横目に見ながらググーッと地球→地表に近づいていき、一隻の船の甲板、男の顔へクローズアップ! とよくわからないオープニングですが、それはともかくまず、セリフなし・状況説明なしで一人の男の死の顛末をクールに描く滑り出しが素晴らしいです。

 最近の映画では『ジョニー・イングリッシュ』など、荒唐無稽に描かれがちな[スパイ]の現実の姿を描こうとする意欲作。ヴァンサン・カッセルとモニカ・ベルッチ加わるスパイチームが、武器密輸船を爆破する密命を成功させるも、その裏には…みたいなお話。

 何かとリアルで、例えば女スパイ=モニカ・ベルッチは武器商人の部屋に忍び込み、情報を盗み出そうとしますが、そのとき使うのは、カメラ付き携帯電話、Apple iPod、mini SDカードなど、誰でも入手できる物ばかり。007の秘密兵器に比べれば貧乏くさい感じでいかにもリアル…というか、フランスのスパイだから貧乏くさいのか? …ってよくわかりませんが、リアル・タッチが気色よいです。

 スパイ映画といえば、危機的状況をくぐり抜ける[トンチ]が見どころ、この作品でもいくつかリアル・トンチが見られて大いに満足いたしました。

 モロッコでの任務を終えたヴァンサンとモニカ、空港パスポート・コントロールでモニカがいきなり連行されてしまう! それを見たヴァンサン、パスポート・コントロールをくぐり抜けるために駆使したトンチとは? 見てのお楽しみですが、現実に使えそうなトンチになっております。

 また、マドリッドの女スパイから、情報を引き出す/消すためにヴァンサンが繰り出すトンチも良い感じです。

 こちらはネタバレ恐縮ですが、マドリッドの女スパイ、普段はバーの店員で、ヴァンサンは怪しまれず近づくための[変装]をします。その変装とは、[ローディー(ロードレーサー乗り)]に化けるというもの。自転車のホイールを持ってバーへ入り、「自転車パンクしちゃってさー、水もらえないかなー?」…って、怪しすぎる! 案の定女スパイはいきなり拳銃を撃ってくる! …ヴァンサン苦心の変装も完全に裏目に出て、「不発に終わるトンチもある」というところがリアルです。

 リアルタッチが貫かれて、ちょっとだけくり広げられるカーアクションも、肩が凝るほど緊張感があります。ちょっとジョン・フランケンハイマー晩年の地味な傑作『RONIN』を思い出しました。

 極力、説明的な描写が排除され、話の結末もよくわからない感じで、最近の分かりやすすぎる娯楽映画とは一線を画そうとする、志の高さに私は茫然と感動しました。監督はアンドレ・デュソリエ、よく知らない新鋭ですが、クール、リアル、トンチと三拍子そろった語り口がお見事、要チェックですね。

 腐朽した官僚(Rotten bureaucracy)の気色悪さ+倫理の無さ、さらにスパイとしてしか生きられないスパイたちの悲しさなんかも描出されており、こういう地味でリアルな[スパイ映画/国家の陰謀映画]は久しぶり、かつては、超・地味な『寒い国から帰ったスパイ』(1965年/マーティン・リット監督)、『エスピオナージ』(1973年・アンリ・ヴェルヌイユ監督)など、「実録(風)スパイもの」と呼ぶべきジャンルが存在しておりましたが、その系譜が久々に息を吹き返した、ということでオススメです。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA
Original: 2005-Feb-3;