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 Movie Review 2004・11月29日(Mon.)

ハウルの動く城

 ふたりが暮らした。ババーン! 『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』がアホみたいにヒットしてすっかり国民的映画監督になってしまった宮崎駿の最新作、私の場合、昔から宮崎駿ならなんでもオッケーですので、ただただ宮崎駿がくりだす映像を茫然と堪能するばかり、やっぱり宮崎駿、素晴らしいなあ、とため息をもらしたのでした。

『千と千尋の神隠し』以降の三年間に、CGを使いまくったファンタスティックな映像が数多く作られ、アニメーションでも『東京ゴッドファーザーズ』『スチーム・ボーイ』『イノセンス』など、傑作・意欲作が色々ありましたが、やっぱり映像の気色よさが格別である、と一人ごちました。

 考えてみれば、気色よい映像の基準は、『アルプスの少女ハイジ』『母をたずねて三千里』『未来少年コナン』などによって幼少期・青年期に刷り込まれたものですので、宮崎駿的な映像には、条件反射的に反応してしまうのかもしれません。よくわかりませんが。

 たとえば今回の『ハウルの動く城』で、ベーコンエッグが圧倒的においしそうに作られるシーン、『ハイジ』でチーズを火であぶってパンにのせてハグハグ食べるシーンの記憶がよみがえって、そうそう、これこれ、これですよと映画館の暗闇で一人ごちたのでした。

 と、宮崎駿の作品を見ること=人生の喜び、であるわけですが不満がないわけでなく、それは「短すぎる!」に尽きます。

『ルパン三世 カリオストロの城』『天空の城ラピュタ』『紅の豚』などは、2時間前後の上映時間でピッタリ、しかし近作は『もののけ姫』にしても『千と千尋の神隠し』にしても、えっ! もうまとめに入るの? みたいな感じで、今回もせめて『未来少年コナン』みたいに全26話、とまでいわないまでも、5時間くらいの上映時間がほしいところでございます。

 とはいえ今回、話の進めすぎ・まとめ過ぎがちょっと味のあるタッチになっていて、ラスト、めちゃくちゃ唐突に○○(ネタバレ自粛)が現れる展開や、魔法をかけられて90歳の老婆になってしまった主人公ソフィ、もっとじっくりビックリしてほしいところ、あらあらお婆さんになっちゃったわねぇ、ここにはいられないわねぇ、と即旅立ってしまうところとか、ちょっと宮崎駿の老人力が発揮されてきたみたいで頼もしい限りです。

 と、いうか、ソフィがあまり驚かないのは、これは物語が進行するうちになんとなく判明しますが、ソフィにかけられた魔法は、「少女を90歳の老婆に変える魔法」ではなく、「精神年齢を、肉体化する魔法」だからなのであった。ほとんどビックリしないのは、すでに精神年齢が90歳だったから、ということなのでしょう。すなわちこの作品は、老けた考えをしがちな少女が、実年齢と精神年齢を一致させるまでのお話なのである。…か、どうかはご覧になったみなさんに判断していただくとして。

 ソフィは、少女・中年女性・老婆キャラを行ったり来たり、最近はCG・特殊メイクが進歩してますから「実写」でもできなくもないでしょうけど、これぞアニメならではの表現、一人で声を演じ分ける倍賞千恵子もお見事です。

 そういえば三輪明宏ふんする「荒地の魔女」が、階段をあがるシーンでぐずぐず崩れるシーンもアニメならではの愉快な表現、ソフィが発揮する老人力とあいまって、名場面となっております。というか、CG・特殊メイク全盛時代にあっては、ここまで過剰に崩さないとなかなか「アニメならではの表現」とはならないのでしょう。

 今回ハウル(声はキムタク。好演)のキャラクターが、なかなか現代的というか、新しい感じで、かつてなくナルシシズムあふれる美少年の魔法使い、髪の毛が変な色に染まってしまって「美しくなければ生きていけない…」とドンヨリ落ち込み、緑色の汁をしたたらせるシーンは、ちょっとニューウェーヴな感じのギャグになっております。

 ところでこの作品における魔法使いは、「科学技術者」の寓意でございましょう。すぐれた「科学技術者」は、戦争協力を国家に強いられてしまう。ハウルは、好奇心から魔法の修行を積み、優秀な魔法使いになってしまってしつこく戦争協力を求められます。魔法を学んだのは、戦争・人殺しのためではない! と虚無にとらわれ、やさぐれて怪物化していく…。

 ハウルは、これまで「動く城」でガチガチにガードを固めていた内面に、ソフィにあっさり侵入され、「動く城」をいったん破壊され、魔法のつかいみち――家族を守ること――を見出す、という展開。

 今回、宮崎駿のエゴがあまり噴出していないように見えて、やはりこの作品のハウルは、宮崎駿自身の投影であります。好きで始めたアニメ稼業、ところが特大ヒットを飛ばしてしまって色々とわけのわからない責任を問われたりして複雑な心境なのかもしれませんね。って適当ですが、一人の女性でありながら、老婆の知恵と、中年女性の母親的な包容力と、少女のまっすぐな感情をあわせもつソフィは、宮崎駿にとって理想の女性像なのでありましょう。掃除もしてくれるし。内面に踏みこんでほしくないけど、踏みこんできてほしい、みたいな? …か、どうかはご覧になったみなさんに判断していただくとして。

 とはいえ『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』で炸裂していた宮崎駿の左翼魂=説教くさいところが今回は稀薄で、一応、戦争反対! やっぱり愛が大事! 家族がいちばん! というテーマがありますけれど、物語にうまく埋めこまれていて、私としては、もっとゴリゴリっと、社会主義者っぽく展開してほしいところでございます。と、いいながら、戦闘シーンの兵隊(?)が、さながらボッシュの描く怪物風におぞましく描かれているところはさすがですし、考えてみれば、イラクで非道な戦争が続けられる今日にあっては、シンプルな主張の方が届きやすいのかも知れませんね。よくわかりません。

 さて、もう一回見に行くか! って感じでバチグンのオススメです。

☆☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Nov-28