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 Movie Review 2004・11月27日(Sat.)

血と骨

公式サイト: http://www.chitohone.jp/

 これは家族の物語である。血は母より 骨は父より 受け継ぐ。ババーン! 原作は梁石日(ヤン・ソギル)、父親をモデルにしたという小説を名作『クイール』の崔洋一監督が映画化。主演はバッチリはまり役のビートたけし。ちなみに私、原作現在読み中です。パラパラ。

 なんといいましても、金俊平=ビートたけしのキャラクターが強烈です。かつてこんなに強烈な人物像があったでしょうか? いや、ない、と自問自答してしまうほど。この野放しぐあいは、強いていえば『岸和田少年愚連隊』のカオルちゃんに似て、しかしキツさを100倍くらいにした感じ?

 冒頭、少年・金俊平(伊藤淳史)は済州島から出稼ぎ船「君が代丸」に乗って大阪にやって来ます。船の上から、遠く工場の煙がもくもくと立ちあがる工場地帯を見つめる目は、希望に輝いております。

 しかしビートたけしに成長した金俊平、いきなり「キムチ!」と一声あげてマッコリを飲み、鈴木京香を強姦する…。以降、金俊平の、こわいものしらずの家庭内暴力と、それに蹂躙される家族の年代記が語られます。『ゴッド・ファーザーPART II』の在日朝鮮人バイオレンス版と申しましょうか。

 娘・田畑智子に金俊平が問うシーンが素晴らしく恐ろしいです。「わしは、おのれの何やー!? わしは、おのれの何やー!?」。娘・田端智子答えて、「…お、お父さんです」。うーん、恐い! どのように答えても半殺しの目に会ってしまいそうな不条理な雰囲気が最高です。脚本の鄭義信(チョン・ウイシン)は、『愛を乞う人』の脚本も担当した方ですが、家庭内暴力を描かせたらピカイチでございますね。ってよくわかりませんが。

 崔洋一監督は『刑務所の中』『クイール』同様、「映画的」な誇張を排してカメラも引き気味の淡々としたタッチ、あるがままの金俊平の半生を描こうとします。善悪・好悪の判断は観客にゆだねられております。…って、たいていの人は、ウジ虫のわいた豚肉を食らう金俊平に、とんでもなく嫌悪感を持つと思いますが。ちゅうか、すごすぎる。

 金俊平には、法も倫理も、国家も道徳もへったくれもなく、やりたいときにやり、むしゃくしゃしたら暴力をふるうという野獣のごとき行動原理、誰にも心を許さず頼りにするのは金だけの守銭奴、ときおり、ニコニコしながら豚を解体する、あるいは脳腫瘍の手術で不自由になった妾の身体をふいてやる、と一瞬、ほほえましい面も見せますがそれは一瞬。ひたすら暴力をふるいまくり、やりまくり、金の亡者ぶりを発揮し続けます。身近には絶対いてほしくないお父さん、しかし、ひたすら暴力をふるうシーンをえんえん長回しで映し出されると、金俊平の姿がだんだんと何やら悲しく哀れに、ひょっとすると美しく見えてくる。

 北朝鮮に帰還する、左翼かぶれのカマボコ工場の職工さんが、別れの駅で「この一瞬、一瞬、キミらみんなが詩なんや。詩書け、詩」と言いますが、金俊平の暴力もまた、一編の詩なのではないでしょうか。そして、左翼かぶれの職工さんが、北朝鮮に行ったきり音信不通になったように、その詩は、美しくもはかなく、グロテスクなまでに無意味なのであった。ってよくわかりませんね。

 いやいや、やはり家庭内暴力は許しがたい。金俊平がなぜ、かように暴力的な、野獣のような人間になってしまったのか? 何を考えているのか、何も考えていないのか。

 ラスト、死にかけの金俊平の脳裏に、唯一の心象風景といってよい、大阪を遠方に望んだ映像が浮かびます。金俊平がどんな感慨をいだいていたか?

 若き金俊平は何を夢みて日本に渡ってきたのか? 若き金俊平に、大正・昭和初期の日本はどのような仕打ちをしたのか? それはこの作品では空白となっております。また、朝鮮人集落外部の日本との関わりはほとんど描かれない。

 話を朝鮮人集落に限定し、それをとりまく日本を描かないこと、あえて空白にすることによって、逆に日本人と朝鮮人の強烈な軋轢が浮かび上がっているのだ…と、私は一人ごちました。適当ですが。

 で。ここまで書いてちょうど原作の上巻を読み終わったところですが、原作上巻では、映画では描かれなかった、戦前・戦中の朝鮮人がどのような境遇におかれていたか? が割と克明に描かれております。

 おもには、金俊平の弟分の高信義がカマボコ工場を不当解雇され、朝鮮人職工たちがヤクザにボコボコにされた上に刑務所にほうりこまれ、拷問され…という話や、酒と博打と女に明けくれる金俊平、地元ヤクザもコテンパンに叩きのめす模様や、日本に渡ってくる以前から手のつけられない悪童だったことなどが語られます。

 金俊平は、高信義に代表されるような、当時の朝鮮人がおかれた平均的ポジションから超然として、おのれの並はずれた腕力で運命をねじふせようとするけれども、力あまって家族にも猛烈な暴力をふるってしまう…みたいな。原作もバチグンに面白いのでオススメですよー。いや、まだ上巻を読み終わったところなのですが。引き続き下巻を読みます。パラパラ。

 閑話休題。ビートたけしは、もう少し若い頃に演じておればもっと凄いことになったかも? と思いつつ、間に合ってよかった! って感じで、『ひょうきん族』、たけし軍団と出演した『笑ってポン!』、『スーパー・ジョッキー』のガンバルマンなどテレヴィ番組、監督作すべて、それらキャリアの集大成的な演技で、たけしを見続けてきた私は、こんなすごい役を演じられるのはビートたけしにとって生涯ただ一度、それをリアルタイムで目撃できるのは私にとっても生涯ただ一度かも? と茫然と感動しました。映画史にたちあえた、というか。って、よくわかりませんが、オダギリジョー、松重豊、寺島進、鈴木京香、田畑智子ら助演陣も素晴らしく、俳優さんのアンサンブルが絶妙、バチグンのオススメです。

 しかし崔洋一監督は、『刑務所の中』『クイール』、そして『血と骨』、名作連発、現在絶好調でございますね。

☆☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Nov-25
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