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 Movie Review 2004・11月26日(Fri.)

パニッシャー

 これは復讐ではない、戒めだ。ババーン!

 またまたマーヴェル・コミックスのアメコミが原作。FBI潜入捜査官フランク・キャッスル(トム・ジェーン。よく知りません)は、ハワード・セイント(ジョン・トラボルタ)ひきいるマフィアに妻・息子、一族郎党を惨殺され、法に裁きをまかせておけない! と、たった一人で復讐に立ち上がるのでした。ババーン!

 スパイダーマンやらXメンやらデアデヴィルと違って、主人公フランク・キャッスル、特殊能力は持たない生身の人間というのが面白く、かつて対テロ特殊部隊できたえた知力と体力でマフィア一味にたち向かっていきます。

「復讐」がテーマで、『狼よさらば』『マッド・マックス』あるいはマカロニ・ウェスタン的なお話、妻・息子が惨殺されるシーンは『マッド・マックス』そっくり、また、クルマをバリバリにチューンナップ、装甲を改造したりするのも『マッド・マックス』風。で、『マッド・マックス』風壮絶カーチェイスが展開するのかー? と期待させておいて、一瞬でスクラップになるなど、そういう意表のつき方がよいのでした。

 何より素晴らしいのは、映画の中盤。

 フランクは、妻子を殺した犯人の手がかりを得ようと、チンピラヤクザをとらえ、拷問にかけます。

 逆さづりにされたチンピラ「ガ、ガスバーナーじゃねぇか、何をしようってんだ!?」

 フランク「ふふふ。人間の皮膚をこいつで燃やすと、感じるのは熱さじゃないぜ。神経も一瞬で焼き切れてしまうからだ。科学は面白いな。…貴様が感じるのは、冷たさだ! 痛みがやってくるのは、先の話だ…」

 なんとも残虐な拷問ですが……ここでフランクがおこなう拷問、見事にトンチにあふれたもので、私は久々にアメリカ映画にすぐれたトンチを見出し、茫然と感動しました。

 次に、めちゃくちゃカッコイイのは、組織が放った殺し屋をフランクが迎え撃つシーンふたつ。

 フランクがカフェで食事をしていると、ギターケースを抱えた、いかにも殺し屋然とした男が入ってきます。男はギターケースをゆっくりと開ける…。フランクは腰の拳銃に手をのばす…。いきづまる一瞬、男は、ギターを取り出しいきなり歌いだす! 一曲歌い終え、「これは俺がお前のために作った曲だ。じゃあまたな!」と男は店をあとにする…。す、素晴らしい! この意表のつき方、間のはずし方はただものではない感じ、監督・脚本は『ザ・ロック』『アルマゲドン』『ダイ・ハード3』などの大作アクションの脚本家ジョナサン・ヘンズリー、これが監督デビュー作だそうですが、緊張と緩和のコンビネーションが見事でございます。

 さらに今度はフランクのアパートを、怪力ロシア人殺し屋が襲います。フランクはこてんぱんにのされ、さながら黒澤明『用心棒』で、桑畑三十郎が“かんぬき”に痛めつけられるシーンを彷彿とさせます。マカロニ・ウェスタンっぽいなぁ、と思っていたら、『用心棒』にまで先祖帰り、みたいな? よくわかりません。

 この一大暴力シーンのバックにはプッチーニのオペラが大音量で流されており、これまた「悲惨なシーンに、現実音で陽気な音楽を流す」黒澤明お得意の「対位法」で、この、ロシア人殺し屋とフランク・キャッスルの戦いはなかなかの名場面でございます。

 パンフによると、ジョナサン・ヘンズリー監督がめざしたのは、セルジオ・レオーネ、クリント・イーストウッド、ドン・シーゲルらのタッチだそうです。さらに極力CGを使わずスタントマンの技術を生かす、というセンスの良さ、こういうアクションが見たかったのだ! と私は、観客たった3人の弥生座2で一人ごちたのでした。

 ところで「これは復讐ではない、戒めだ」ということですが、実はただの復讐でして、ここでもまた「復讐の連鎖」が描かれるのであった。マフィアのボスがフランクの家族を殺すのも、もともとFBIの卑怯な潜入捜査で自分の息子が巻き添えを食って殺されたからですし、「正義の味方」のはずのフランクも、ひょっとしたらマフィア以上に卑劣・卑怯かもしれない手段でトラボルタに復讐します。うーん、ひどすぎる…。こういう、スカッとしない感じもマカロニっぽくてグーです。

 クライマックス、フランクが単身トラボルタの屋敷に乗り込みます。『怒りの山河』(1977年・ジョナサン・デミ監督)っぽくアーチェリーも使ったりして、特殊部隊出身フランクにとってマフィア一味を皆殺しにするのは、赤子の手をひねるより簡単な感じ、実に後味が悪くて素晴らしいです。

 ラスト、復讐を終えたフランクは“パニッシャー”と名乗り、法が裁けぬ悪人を懲らしめる決意を表明します。と、いうか、フランクは司法をあなどり過ぎと違うか?

「5ヶ月たっても犯人を一人もつかまえてないじゃないか!」と言いますが、最重要な目撃者=フランク自身がいろいろ証言すれば、捜査も進展するのでは? とツッコミつつ、“パニッシャー”とは、9.11の報復としてアフガン侵攻、勢いあまって国際法を完全無視、イラク人を虐殺し続けるアメリカの似姿に他ならないのであった。か、どうかはご覧になったみなさんに判断していただくとして。

 それはともかく、脇役のキャラ立ちも見事で、フランクのアパート隣人はみな負け犬(Loser)ぞろい、わけても顔面にピアスしまくりのデイヴが秀逸、乱暴者に襲われそうなところフランクに助けてもらって、ひとこと、「人に助けてもらったのは、生まれて初めてだ…」としみじみつぶやくとか、のちほどフランクが窮地に陥ったときに、盾になってかくまうシーン、私は茫然と「漢(おとこ)だぜ! デイヴ!」と感動の涙を流したのでした。

 ともかくジョナサン・ヘンズリー初監督にして最高! 次回作が楽しみでございます。バチグンにオススメ。

☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Nov-24