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 Movie Review 2004・11月11日(Thu.)

隠し剣 鬼の爪

公式サイト: http://www.kakushiken.jp/

 つつましく、凛と、生きる。ババーン! 傑作『たそがれ清兵衛』に続く山田洋次監督時代劇、第二弾! ダーン!

 お話は『たそがれ清兵衛』に似ておりましてね、ときは幕末、めっぽう剣の腕は立つけれども貧乏な下級武士が主人公、心の底で好いちょる婦女子がおりまして、しかし身分ちがいで恋心をうちあけるわけにもいかず、そうこうしているうちに藩の命令で、人殺しに出かけるはめに、って『たそがれ清兵衛』と一緒ですね。今回主人公は永瀬正敏、ヒロインは松たか子、殺しに行くのは小澤征悦。で、まあそんな感じでがんす。

 幕末の時代に、下級武士が、藩の命令に従って生きることのアホらしさを卒然と悟り、近代的自我にめざめて近代的恋愛を開始するという図式ですが、『たそがれ清兵衛』では、藩命のアホらしさを悟るのと恋愛が成就するのがドラマ的にうまく、スリリングに融合していたのに対し、今回はどうでしょう?

 今回、永瀬正敏と松たか子の恋愛話と、幼なじみ・かつて同門のライバル=小澤征悦を殺しに行く話があまりかみあっていない、別の話を一緒にしたみたいな印象です…って、原作は二つの短編だそうです。ふーん。

 よくわからないのは、「命令」というものの扱いです。ネタバレですが、永瀬正敏と松たか子は、旦那様とお女中という主従の関係にあり、永瀬正敏がプロポーズすると、それに対し松たか子「それは、ご命令でがんすか?」と問い、永瀬正敏「命令でがんす!」と答える。ほほえましいシーンですが、一方で人が人に命令することの愚かしさを暴きながら、そうではない命令もあるのですね、みたいなオチではどうにも釈然としないのでした。

 そんなことはどうでもよくなるくらいに、永瀬正敏と松たか子のロマンスが盛り上がればいいのですけど、今ひとつではないでしょうか。たとえば、松たか子が嫁いだ先の商家で、姑にいじめられて病に伏せっているのを、永瀬正敏が武士の威をふりかざして略奪するシーン、松たか子は真っ暗な納戸にほうり込まれていて、すっかりやせおとろえて…………いるかと思いきや、ほっぺたぷっくりでぜんぜん健康そうじゃん! 泣けるシーンなのに、ぷっくりほっぺに爆笑、みたいな。いや、永瀬正敏、松たか子ともに好演なんですが。

 とはいえ、『たそがれ清兵衛』に続いて、下級武士の生活を丁寧・丹念に描いて素晴らしいし、藩では西洋式軍事教練を導入したばかり、武士たちのとまどいぶりの模様が興味深いし、点景として描かれる軍事教練が、段々とまともな軍隊に育っていくのは、近代合理主義の性急な導入で、日本人は何かを無くしてしまって軍国主義へと突き進んでいった…みたいな、『ラスト・サムライ』にも通じるテーマで色々考えさせられます。

 それと、「隠し剣 鬼の爪」というのは、師から一人の弟子だけに伝えられる秘剣、実はこの映画では「鬼の爪」は登場せず、別の魔剣が登場するのですが、その魔剣が、「なるほどこれは魔剣ですな!」と思わず感嘆させられまして、時代劇の秘剣・魔剣というと、映像で見せられても何が凄いかよくわからないものが多いだけに(円月殺法とか?)、お見事でございます。

 ぜひこれからも、山田洋次監督にはどしどし時代劇を作っていただきたいものでがんす。オススメ。

☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Nov-10
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