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 Movie Review 2004・5月11日(Tue.)

スクール・オブ・ロック

 日本の教育をつぶせ! 全米 No.1 教師にまかせろ!! ババーン! …とは的はずれな宣伝コピーの気がしますが、アメリカの宣伝コピーは“We don't need no education.”…ピンク・フロイド『ザ・ウォール』の名文句ですね。

『ハイ・フィディリティ』(スティーブン・フリアーズ監督)での、レコードオタク店員役怪演が素晴らしかった、ジャック・ブラック(以下 JB)本格主演作である! ババーン! ワクワクです。

 日本では、ほとんど無名のはずのデブ俳優さん主演作、しかも上映が、「いつも空いてる映画館」「たった一人で見たこともある映画館」の弥生座 2 、余裕で出かけところ、満席で入れなかったのですよ。ガーン! 素晴らしい! …後日に出直したわけですがそのときも満員。満員の弥生座で映画を見たのは、20 年ぶりくらい?

 それはともかく、この作品の脚本家マイク・ホワイト(出演も兼ねる)は、JB の隣に住んでいたそうで彼のキャラを知り尽くしており、キャラを生かし切る見事な脚本、監督は『恋人たちの距離(ディスタンス)』『ウェイキング・ライフ』のリチャード・リンクレイター、演出は抑制が効いたオーソドックスなもので、JB の至芸の数々がたっぷり堪能できるのであった。全編、エンドタイトルの最後の最後まで、一人の俳優の魅力が炸裂する、10 年に 1 本あるかないか? という、奇跡的なまでに幸福な映画となっております。

 とりあえずロックンロールにまつわるトリヴィアをちりばめた JB の話芸なんかをお楽しみください。バチグンのオススメ。

 しかしですね、お話が、きれいにまとまり過ぎているかもー? と、私は一人ごちたのです。以下ネタバレです。

 JB はロック道ひとすじバンドマンですが、暑苦しいプレイのため、自分のバンドから追い出され、ひょんなことから私立小学校の代用教師に。JB は、バンドコンテストに出場したいがために、こっそり小学生にロックを教え、バンドを結成し、……というお話です。結局、校長やら父兄やらに、授業のフリしてロックを教えていたことがバレてしまうのですが、父兄は、バンドコンテストで演奏する我が子を見て「あら、うちの子にこんな才能があったなんて…」と、いとも簡単に JB を赦してしまうのですよ。

 親が親なら JB も JB です。JB は、「ロックは反抗だ!」と生徒に教えていたのに、簡単に赦されてしまってよいのか? コトが発覚してからがすんなり流れすぎで、クライマックスの多幸感あふれるバンドコンテストもあいまって、ファンタジーになってしまった、って感じ?

 と、いうか、『デンジャラス・マインド』(ミシェル・ファイファー主演)、『リーン・オン・ミー』(モーガン・フリーマン主演)、あるいは『陽のあたる教室』(リチャード・ドレイファス主演)、はたまた『いまを生きる』などなど、教師が少々型破り、生徒は当初とまどいつつも成長していくという、アメリカ映画の伝統的学園ものパターンにすっぽり収まった印象です。

『スクール・オブ・ロック』は、「主人公が、瀕死のサブカルチャーを、延命させようと奮闘する」という点で、『セシル・B ・ザ・シネマウォーズ』に似ております。って、JB にはセシル・B のような使命感はなく、自分の欲望に忠実なだけなんですけど、JB が、「かつてロックは、“ザ・マン”(大物)に支配された世界を変えかけたんだ! それをダメにしたのが、“M 、T 、V”だ!」…と講義するのは、『セシル・B 〜』の、「みんなシネコンに行ってしまって、名画座はパゾリーニ映画祭をやっているのに観客ゼロだよ!!」という嘆きに対応していると思うのですよ。

 しかし対照的に、『セシル・B 〜』では、「家族は、映画の敵だ! 家族とは“検閲”の別名である!」と吠えたのに、『スクール・オブ・ロック』では、校長や父兄にロックが受け入れられて目出度し目出度し、とはいかがなものか? 校長は“ザ・マン”ではないのか? 家族は、映画の敵ではあってもロックの敵ではないのか? …と、釈然としないものを感じたのでした。校長・父兄は、もっと JB を糾弾すべきですし、JB はもっともっと反抗すべきでは?

 つまるところ、この作品はロックの完全なる死を描いているのかも知れません。ロックは、小学校で教えられるような、人畜無害な文化・教養になってしまったのかしら?

 一方で、ロックが校長・父兄の心を溶かした、「ロックの局地的な勝利」を描いたと見る方もおられるでしょう。おそらく、そのどちらの見方も正しくて、そういう白黒つけがたいところが「ロックの現在」なのであろう。うむ。って私、ロックに詳しくないのでよくわからないのですが、はたまた、ロックは今、死に体で、再び“ザ・マン”と対決する時に備えロック戦士を小学生から養成していこう、って感じ? それとも対テロ戦争のため、国内でごちゃごちゃいがみ合ってる場合でなく、今のところはロックを体制に取り込んでおいて、落ち着いたら弾圧を始めるとか? …ってよくわかりません。

 伝統的学園ものパターンにすっぽり収まったことが逆に、『スクール・オブ・ロック』を議論を呼ぶ作品にしているんだぜ、イエイ、とロック調で一人ごちてみました。

 そんなことはどうでもよくて、満員の弥生座 2 がどっかんどっかん爆笑の渦に包まれる……みたいなことになればよいのですけど、例えば、「なぜ、うちの娘は最近デビッド・ゲフィンの話ばかりするんでしょう?」なんてセリフにギャハハハ! と爆笑しても一人、みたいな? 「何が面白いかよくわからないところで笑うオタクさん」状態、私は、群衆の中の孤独を味わったのでした。…いつもの観客数 5 人未満の弥生座 2 の方が、客のノリは良いかもー。とはいいつつ、隣に座っていた初老のオバサンも「見て! あの子、かわいいわねー」と大はしゃぎでしたので、どなた様も、ご家族そろってお楽しみいただけるのではないでしょうか。

 ぜひ、続編を作っていただきたいところで、続編はバンド「スクール・オブ・ロック」が日本ツアーを敢行、なぜかプロレス観戦をして、JB とアントニオ猪木が意味なく対戦…なんてことになればなぁ、なんて想像する今日この頃なのでした。

☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-may-10