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 Movie Review 2004・3月19日(Fri.)

イノセンス

 日本映画史上画期的傑作『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』9 年ぶりの続編です。ババーン!

 私もまた、前作は画期的な作品であった、うむ、と一人ごちる者の一人ですが、こういう傑作の続編となると、期待が高まるのが世の常、人の常、期待しすぎて「前の方が面白かった…」とションボリするがオチ。しかし、押井監督の偉いところは即座に「柳の下にドジョウ三部作」と続編にとりかかるでなく、色々あった後に実写作品『アヴァロン』を撮って、これが CG 使い過ぎ、無名外国人俳優さん演技に萎え萎え、スクリーン超小さい某ミニミニシアターで鑑賞したこともあってピンと来ない出来上がりでした。

 そういう、私にはダメだった作品の後で今さらの『GHOST IN THE SHELL』続編となれば、「きっとつまんないでしょうなー」と最悪の事態を予想し、期待値=マイナス状態で鑑賞に臨んだ『イノセンス』、予想を上回って(期待してなかったので当たり前)「私が見たかった映画はこれですよ!!」と呆然と一人ごちる素晴らしさでした。

 私が押井作品でいたく感心するのは、CG ばんばんの耽美的映像よりも、例えば巨大建造物の演出です。巨大な建物を、巨大と感じさせてくれる演出が気色よろしい。

 これは『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(金子修介監督)を見て卒然と悟ったのですが、着ぐるみにしか見えないバラゴンが、なぜ巨大に感じられるのか? それは、バラゴンが進む森から、ぱらぱらぱらと飛び立つ鳥の群れが CG で加えられていたからではなかろうか? 巨大なものを巨大と感じさせるには、鳥の群れが不可欠、択捉特区の巨大ビル群には、もの凄い数の鳥が舞っている。うーん、気持ちいい。

 あるいは、クライマックス、ハンス・ベルメール風人形がばーんばーんと天井から落ち、主人公バトーらに猛然とクンフーで襲いかかるシーン。作画監督・沖浦啓之(『人狼』監督)らによる人形の動きが最高です。素晴らしすぎて、ひょっとしたらこれを上回る感動を得るには、また 9 年待たねばならぬかー? と一抹の寂しさを覚える。

 あるいは、バトーがヤクザの事務所に殴り込むシーン。前作以降作られた実写を含むあまたのアクション映画は、このアクションの足下にも及ばない……というわけでもないでしょうけど、『マトリックス』(一作目)、『少林サッカー』、『座頭市』、『HERO』くらいしか思いつかないです。

 ただ映像・アクションが凄いだけでなく、前作同様クライムストーリーというか、ポリス・ストーリーとしての骨格がはっきりしているのも良いです。と、いうか、謎の事件発生→タイトルバックはロボット(犠体?)製造過程→壊れたロボットから手がかりをつかむ→音楽に乗せて、中華風の風景の数々→またまた力まかせにむんずと力をこめて、みちみちみちと腕が破壊され……という、前作と同じような光景が繰り返されます。「前作の、どこか面白かったのか?」押井守の冷徹な分析が感じられるのであった。

 前作主人公・草薙少佐はネットの彼方へ消えてしまって、どう続編を撮るか? ここがトンチの見せ所ですが、脇役だったバトーを主人公に、同じような物語が繰り返される……『うる星やつら ビューティフル・ドリーマー』や、今作でトグサが陥る堂々巡りにも似て、既視感をともないつつ新鮮な驚きがある、良くできた大幅ヴァージョンアップ製品と言えましょう。

 映像、アクション、ストーリー、それぞれは高密度で完成度が高く、ってやっぱり CG が浮いてますけど『アヴァロン』より随分マシなのでオッケーです。

 さらに、原作・士郎正宗マンガの功績でもあるのですが、ウンチク満載なのも良いです。前作から引き継がれた考察=人が機械に近づき、機械が人に近づいたとき、機械と人の線引きをどこに置くか? という、チューリングテストを映画でやってみた、みたいな? ウンチクがたらたらと垂れられ、情報量が多くてよくわからないのですけど快い脳の疲れを感じるのでした。

 人間も含めた生物は、「遺伝子の乗り物」に過ぎない、リチャード・ドーキンス科学読み物名著『利己的な遺伝子』 、あるいは『延長された表現型』風、というか、遺伝子生物学的に人間・文明を解き明かそうとするクールな視点で、人間なんて「遺伝子の乗り物」なんだよー、と言っちゃうとシニカルかつニヒルな感じ、シニカルかつニヒルな草薙少佐は冷め切ってネットの彼方へさまよい込みましたが、続編主人公バトーは、一般的「人間」に踏みとどまろうとします。ニヒリズムを打ち破るもの、人間と機械を分けるのは、それは「倫理」ではないか? いかに自分が苦しい目にあっても、無関係な他人を傷つけることは許されない! と至極当然、しかし論理でははかれない倫理をもって子供を叱りつけるバトー、超男前です。子供に対して熱くなれることこそ生命と疑似生命体を分けるものではないか? ってよくわかりません。というか、違うと思う。

 それはともかくセリフまでもが高密度で、「神は永遠に幾何学する」など金言・箴言が意味なくちりばめられます。記憶が外部化された世界が舞台で、登場人物は「お! このシチュエーションにぴったりの言葉があったはず!」と電脳内で一生懸命 Google 検索しているんでしょうね。で、そういう箴言を言われた方も、一生懸命 Google 検索して、さも最初からわかってたかのような返答をする、と。やたら勿体ぶった、知ったかぶりな言葉が氾濫する(私のレビューとか?)今日のインターネット状況を的確に描写するのであった。って違うと思う。

 そんなことはどうでもよくて、バトーが飼っているバセット・ハウンドが超かわいいです(どうでもいいって?)。犬が、犬らしい存在として映画に存在する、この点だけでも『イノセンス』は傑作である、と最近犬好き私は一人ごち、『クイール』は押井監督で製作されるべきだった! ってまだ『クイール』見てないので何とも言えませんが、押井監督版『クイール』をいつの日か見てみたいです。

 押井監督「もうアニメは撮らない」とおっしゃているそうですが、そもそも『GHOST IN THE SHELL』続編も撮らないと言っていたわけですし、またそのうち実写映画で萎えさせていただいて、9 年後の続々編を楽しみにしておきましょう。

 前作見てなくてもそれなりに楽しめると思いますが、やはり、前作は見てないとわけわかりません。バチグンのオススメ、ですが、「アニメ」嫌いの人はダメかも? あるいはオタク嫌いな人もダメかも? 押井嫌いの人もダメでしょう。よくも悪くも、狭くてコアなターゲットを相手にした作品かと存じますが、日本のアニメがもの凄いことになっていることを知る上でも一見の価値はあります。ってそんなこと知らなくても別に困らないので、無理にとは申しませぬがバチグンのオススメ。

☆☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Mar-16;
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