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 Movie Review 2004・3月17日(Wed.)

10ミニッツ・オールダー
人生のメビウス

 生きるとは、この 10 分を生きること。ババーン! ってよくわかりませんが、著名映画監督 15 名の、10 分間ショートフィルム集。「時間」というテーマのもとに集った監督は、アッと驚く映画祭セレブ揃い、一体全体、このセレブぶりはどうしたことか? と疑問なのですけど、さては、もの凄く怖かった『タイムマシン』(サイモン・ウェルズ監督)や、タイムマシンものに新風を吹き込んだ『タイムライン』(リチャード・ドナー監督)など、近年、時間テーマで意欲的な作品が相次ぎ刺激を受け、それらに負けてなるものかと 15 人の監督が集まった結果でしょう。

 と、誰もツッコんでくれないボケはおいといて、15 名のうち先行「トランペット」版 7 名分、邦題は『人生のメビウス』、よくわからない日本語題名。ババーン!

 こちらは、

  • アキ・カウリスマキ(『過去のない男』)
  • ビクトル・エリセ(『マルメロの陽光』)
  • ヴェルナー・ヘルツォーク(『アギーレ 神の怒り』)
  • ジム・ジャームッシュ(『ゴースト・ドッグ』)
  • ヴィム・ヴェンダース(『パリ・テキサス』)
  • スパイク・リー(『ドゥー・ザ・ライト・シング』)
  • チェン・カイコー(『北京ヴァイオリン』)

 …と、それぞれ新作が公開されたなら女房(いません)を質に入れても劇場にかけつけたいスター監督で、各編、丁寧に丹念に作られて宝石のような粒ぞろい、まさに『人生のメビウス』とは「映像の宝石箱」である! ババーン! …と言えば聞こえがいいですが、「宝石の詰め合わせセット(値段は 1 本分)」と言い換えたら安さがこみ上げてしまいました。

 って、そんなことはどうでもよくて、同じオムニバスでも 9.11 同時多発テロをテーマにした『セプテンバー 11』的アクチュアルなテーマでなく、「時間」「10 分」なんてテーマはどうでもいい、というか、漠然とし過ぎてどんな風にも撮れるとあっては、どうにも「オムニバス」の面白さが稀薄です。そもそも映画は「時間芸術」ですから、普通に映画を撮ればそれすなわち時間に関する考察となる。

『人生のメビウス』に参加された監督さんたちはそんなこと先刻承知、とりあえず「一応、時間をテーマにしたよ」とアリバイ的に、時計やら、時計の音やら時間を連想させる事物を挿入し、それぞれ好き勝手に自分の世界を展開するのであった。漠然としたテーマだからこそクオリティの高い作品群が実現されたとも言える。

 しかし、『セプテンバー 11』ケン・ローチ/ショーン・ペン作品のような、オムニバスならではの衝撃作・意欲作・冒険作が存在しないのも事実、こと「時間」テーマに関しても、時間の流れを壊した『アレックス』(ギャスパー・ノエ監督)、フィルム逆回転長回しが気持ちよかった『ルールズ・オブ・アトラクション』(ロジャー・エイヴァリー監督)の方が刺激的でしたよね、とつらつら愚考するのであった。

 唯一、2000 年アメリカ大統領選の行方を決定づけた瞬間を、関係者証言で再構成したスパイク・リー『ゴア VS ブッシュ(We Wuz Robbed)』が明快に、アクチュアルな素材で、『アホでマヌケなアメリカ白人(マイケル・ムーア著)でも触れられていたブッシュの不正義を暴いてスリリングな 10 分間となっております。

 と、いうか、スパイク・リー以外の作品は、それぞれ完成度が高いけれども、結局ショウケースに収まってしまった印象、というか、「10 分の短編作って、長編の資金集めに役立てよう」って感じでしょうか。ってよくわかりません。

 とはいえ 10 年に一本しか映画を撮らない(撮れない)、ビクトル・エリセ監督新作短編が見られるのは何にもまさる幸福、エリセ監督好きの方にはバチグンのオススメ、私も『マルメロの陽光』は生涯ベストテンに入れてもいいくらいですので堪能させていただきました。…しかし、この短編で 2000 年代はお終い、次の新作は 2010 年代だったりするのかしらん。

 個人的には、ヴェンダース作品、バッドトリップをモワンモワンした映像で表現しているところが笑える感じで好きだったり。

 普通、オムニバスというと、箸にも棒にもかからぬ脱力作が紛れ込むところ、全作が水準以上を達成した希有な作品集にてバチグンのオススメ。ですが、最初の方が面白すぎて、だんだん盛り下がってくる並べ方に疑問あり。京都での上映は終わってしまいましたが、オイシン君が見逃したそうなので、レビュー書いてみましたー。ってよくわかりません。

☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Mar-16;
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