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 Movie Review 2004・6月30日(Wed.)

デイ・アフター・トゥモロー

 あなたはその時どこにいますか。ババババーン! 『インデペンデンス・デイ』『Godzilla』ローランド・エメリッヒ監督最新作、温暖化の影響で、全地球を異常気象が襲う! 大龍巻、大洪水、そしてマイナス 90 度の超寒波! ババババーン!

 さらに、あまり宣伝されていないようなのですが、劇場ではウィリアム・キャッスルもビックリのギミックが施されていて、さながら“超氷河期体感ムーヴィー”、T シャツ一枚ですと、もう、ガクガクブルブル! って、冷房効きすぎなだけですけど、この作品ばっかりは冷房効きすぎの映画館で見たいものでございます。昔、震えながら『八甲田山』を見たのを思い出しました。

 そんなことはどうでもよくて、面白いのは、「世界規模での大災害」と言いながら、災害描写のほとんどは、アメリカに限定されていることです。

 温室効果ガス排出規制に法的拘束力を持たせる「京都議定書」を、ブッシュ政権が敢然と拒否したのは、みなさまご存じでしょう。

 この『デイ・アフター・トゥモロー』、冒頭まず、米副大統領が「京都議定書を批准したら、アメリカ経済がダメになるではないか!」と科学者を恫喝、しかし突如気候の大変動が起こり、アメリカは大龍巻、大洪水、超寒波でコテンパンにのされ、大統領は死亡、アメリカ人たちは這々の体でメキシコに脱出、副大統領がくりあげ大統領になって、「ごめん、悪かった!」と反省する……というお話、映画の中の副大統領が、現実の副大統領ディック・チェイニー氏に似てたりして、さながらブッシュ政権を罰するがごとし、反米・嫌米感情をお持ちの方なら、うっかり溜飲を下げてしまうことと存じます。

 アメリカ以外では、ほぼ唯一、なぜか東京・千代田区での災害が描かれますが、京都議定書の批准をだらだら先延ばしにした日本もついでに罰しておけ! ということでしょうか。余談ですが、なんでもアメリカいいなりの日本政府が、簡単にアメリカに追随できないよう、議定書に「京都」の名をかぶせた EU の戦略は見事でございますね。

 それはともかく、私も、ハリウッド山の有名な看板が粉々に吹き飛んだり、ニューヨークが水浸しになるシーンに茫然と感銘を受けたわけですが、『インデペンデンス・デイ』『Godzilla』など「強いアメリカ(軍隊)万歳映画」を製作してきたエメリッヒ監督なのに、一体全体どういう風の吹き回しでしょうか? そういえばエメリッヒ監督は、ドイツ出身、ドイツといえば環境先進国、ほんとは地球にやさしい心根の持ち主で、こと環境問題に関しては、「アメリカ許さん!」と思ったのかどうなのか?

 しかし、色々調べてみると、物事はそう単純でもないようです。

 ブッシュ政権は、そもそもエネルギー産業財界人による政権で、石油・天然ガスをばんばん燃やして儲けたい方々ですので、CO2 排出量削減などもってのほか、温暖化の存在すら否定する勢いなのはみなさんご承知の通りです。

 しかし、それに反して、米国防総省(ペンタゴン)は、「地球温暖化の脅威は世界にとってテロリズムの比ではない」という秘密レポートをまとめていたそうです。

 イギリスのオブザーバー紙がすっぱぬいた国防総省のレポートでは、

 2020 年にはヨーロッパの主要都市は海面下に没し、イギリスは“シベリア化”し、世界は核戦争、大規模干ばつ、飢餓、暴動に呑み込まれるという。各国は核の脅威を振りかざして、欠乏する食料・水・エネルギーを確保しようとし、世界は無政府状態と騒乱に陥る。文書の内容を知らされた専門家たちによれば、世界の安全保障に対する脅威として、温暖化はテロリズムの比ではないという。

「温暖化はテロより危険」
http://www.creative.co.jp/top/main758.html

 と報告されております。

 国防総省がレポートを作った、というのが味噌で、「温暖化はテロリズムの比ではない」から、CO2 排出量を削減しましょう、という結論には決して至らず、「世界は無政府状態と騒乱に陥る」から、いっそう奮励努力して、アメリカは世界の憲兵として軍事力増強に努めなければならない、と読めます。

「共産主義の脅威」がなくなって、「テロリストの脅威」を半ばでっちあげ、しかしアフガン、イラク戦争で「テロとの戦い」という大義名分が疑われてしまった現在、次は地球温暖化が引き起こす「世界の無政府状態」との戦いだ! と、アメリカ産軍複合体は位置づけたのではあるまいか。

 この『デイ・アフター・トゥモロー』は、結局のところブッシュ+チェイニー政権後を展望する、アメリカ世界戦略のプロパガンダなのであった。って、くだんの「国防総省レポート」の信憑性はいかがなものか? と思いますけど。

 そんなことはどうでもよくて、肝心の映画の方はどうかと申しますと、ニューヨークの大寒波で閉じこめられた息子を、科学者父デニス・クエイドが救いに行くという、『ファインディング・ニモ』みたいな話で、親子それぞれ意味なく窮地に陥ったりして、ピンチになると途端に眠くなる、最近のアメリカ映画にありがちなパターンです。とはいえ、大災害シーンは CG +ミニチュアが巧く使われてなかなかカッコいいのでオススメです。

☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-jun-30