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 Movie Review 2004・4月26日(Mon.)

オーシャン・オブ・ファイアー

 生き残れるか――!? それは、史上最も過酷なサバイバル・レース。ババーン! 『オーシャン・オブ・ファイアー』とは、さっぱりわからない邦題ですが、19 世紀末に行われていたアラビア半島縦断 4800 キロお馬さんレースの名前。高貴な血筋のサラブレッドしか参加できなかったそのレースに、実在したカウボーイのフランク・ホプキンス(ヴィゴ・モーテンセン)が、野生馬に乗って挑む! ジャーン! ちなみに原題は“Hidalgo”、ホプキンス愛馬の名前でございます。

 監督は『ジュマンジ』『ジュラシック・パーク 3』のジョー・ジョンストン。特撮ばんばんアクション・アドヴェンチャー娯楽作かと思いきや、これがなかなか奇妙な映画でした。

 主人公フランク・ホプキンスは、実在した、馬による長距離レースのチャンピオンだそうで、騎兵隊によるスー族虐殺現場を目撃してトラウマになり、バッファロー・ビルの「ワイルド・ウエスト・ショー」に参加するも酒浸りの日々、ひょんなことからアラビアに渡り、“高貴な野蛮人”アラブ人と戦いつつ友情を結ぶ……って、『ラスト・サムライ』かい!? とツッコミたい感じなんですよ。こういうのが流行っているのでしょうか。

 それはともかく、ネタバレですけどフランク・ホプキンス+ヒダルゴは、並み居る強豪サラブレッドを打ち破り、見事優勝します。つまり、イラクで四苦八苦しているアメリカ人の、「アラブ人を打ち負かしたい」欲望に応える物語となっております。

 一応、ウーンデッド・ニーでのスー族大虐殺という、アメリカ人の悪行も描いて相対化をはかり、またホプキンスは、スー族と白人のハーフで、レースで苦労するうち、スー族としてのアイデンティティに卒然と目覚めて苦難を乗り越えたりして、話が余り愛国的なものにならないよう、存分に配慮されております。って、配慮にも何にもなっていない気がします。

 っていうか、IMdb のトリヴィアでは当初、「フランク・ホプキンスの生涯に着想を得た話だが、そもそも『オーシャン・オブ・ファイアー』レースなんて開かれたことがないし、ホプキンスの母親はスー族じゃないし、ウーンデッド・ニーの虐殺現場にもいなかったし、バッファロー・ビルの下で働いた記録もない」と書かれていたのですけど、その後なぜか削除されております(2004年4月25日)。また、主演ヴィゴ・モーテンセンは、主人公フランク・ホプキンスの物語は実話、作り話と諸説あるとおっしゃっておられます。

 実話か、作り話か? 一体どっちやーーー!? 映画が面白ければどっちでもいいのですけど、伝説的なホースマンの伝説を映画にするのなら、伝説風に映画にしていただくと面白かったのではなかろか? とご意見申し上げたい。例えば、まず映画を現代から始め、老人が「昔、わしは一度だけ、フランク・ホプキンスが馬に乗っているのを見たことがある…」みたいなナレーションで物語を語っていく、みたいな?

 そうすれば、「アラブ人に勝つカウボーイ」の伝説を必要とする現代アメリカ人についての考察、みたいな、ちょっと引いた視点が生まれたのではないかしら? しかし監督がジョー・ジョンストン、そういう重層的な語りは無理でした。話を面白くしようと、アラブのお姫様とのプチ・ロマンスを入れたりしてますけど、そんなもん要らん、と。

 満身創痍、へとへとの馬がゴール手前から、全力疾走、デッドヒートをくり広げるのも、映画を面白くしようとしたのでしょうけれど、逆に、どうでもいい感じを増しておりまして、やっぱりフランク・ホプキンスの伝説を、どういう立ち位置で描くか? そこんところが甘い、と私は一人ごちたのでした。

 むしろフランク・ホプキンスと、愛馬ヒダルゴの結びつきをもっともっと全面的に押し出していただきたかった。映画で語られたトリヴィアですが、アメリカにはもともと馬はおらず、スペイン人が持ち込んだものだとか。馬を知らなかったネイティヴ・アメリカンには、「馬」にあたる単語が無く、馬を「大きな犬」と呼んでいるそうです。

 そんなトリヴィアはどうでもいいのですが、お馬さんが超可愛く、ヴィゴ・モーテンセンも馬好きのオーラがむわーんと出てまして、もっともっと、馬とヴィゴ・モーテンセンをメインにして、『クイール』のように、ヒダルゴとホプキンスの出会いと別れを存分に描く、みたいな映画になっていればなぁ、って感じです。

 ネタ的には面白いし、馬の可愛さは『シービスケット』をしのぎ、ヴィゴ・モーテンセンもかっこいいのでオススメです。

☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-apr-22