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 Movie Review 2004・4月23日(Fri.)

恋愛適齢期

 なぜ、年齢(とし)が恥ずかしいの? ババーン! そんなことはどうでもよくて、ジャック・ニコルソンとダイアン・キートンが送る、大人の、というか、老人のセックスコメディであります。

 ジャック・ニコルソンは、ヒップホップレーベルなど 11 社を経営する実業家、これまで 20 代女子をとっかえひっかえウハウハな 63 歳、今週末も彼女の別荘でウハウハ予定のところ、別荘台所で、なんと! 彼女の母親と叔母さんと鉢合わせ! ババーン!

 監督・脚本は『ハート・オブ・ウーマン』のナンシー・メイヤーズ。セリフが洒落ており、小道具の使い方も巧く、よく知りませんがエルンスト・ルビッチュ、ビリー・ワイルダー風スクリューボール・コメディの雰囲気が漂ってお見事でございます。

 かつて 1930 年代以降? アメリカ映画では性表現が厳しく自己規制されたそうで、例えば夫婦でない男女がベッドのある部屋で同室するのは、不倫を連想させるからダメとか、キスは何秒以上見せたらダメ、とか。

 そういう規制に反抗し、コメディという形でキリスト教的倫理・道徳に挑戦したのが、スクリューボール・コメディで、登場人物はイカれた人たちなので、倫理・道徳に反する行動をとっても大目に見られた、というわけですね。例えばビリー・ワイルダーの傑作『お熱いのがお好き』は、服装倒錯者がヘテロセクシャルとゲイセクシャルの間で揺れ動く物語であり、「Nobody is perfect」=完璧な者はいない、とは、性的マイノリティが発する抵抗の言葉だったわけです。

 そんな適当な話はどうでもよくて、この『恋愛適齢期』が素晴らしいのはですね、かつてのスクリューボール・コメディのように、表現のタブーに挑戦した新鮮な笑いがあるところでございます。そのタブーとは、主には「老境男女の性愛」でして、63 歳のジャック・ニコルソンがヴァイアグラを服用して、20 代女性とナニをなさんと欲すとか、彼女の母親とナニしてしまうとか。ダイアン・キートンとキアヌ・リーヴスがくっつくなど、優れたスクリューボール・コメディに不可欠の、“いかがわしい”雰囲気があるわけでございます。さすがにジャック・ニコルソンが母・娘の両方とナニするのは、あまりにいかがわし過ぎるとの判断か、娘とは未遂に終わるのですけど。

 そういう老人の性愛を描けば、社会派っぽくなったり、生臭くなったりするところ、スマートさが保たれて、「これぞソフィスティケーテッド(洗練された)・コメディである、うむ」と私は一人ごちたのでした。

 げらげら笑わせてくれるのみならず、老境に達して初めて恋の何たるかを知った者の悲しみがあふれ、私は茫然と涙を流した。ダイアン・キートンが最高で、ネタバレですけどニコルソンに裏切られ、泣きわめきながら自分の書いた戯曲に馬鹿ウケしてしまう、「笑いながら泣く人」という演技に、私もまた笑いながら涙を流す。

『デブラ・ウィンガーを探して』で熟年女優がくちぐちに、「歳をとると、恋愛とは無縁な役ばかり」とグチをこぼしておりましたが、ダイアン・キートンはそういうアメリカ映画の傾向に敢然と挑戦し、若き日の『アニー・ホール』と比べても遜色のない、女優の輝きを燦然と輝かせるのであった。

 対して、ジャック・ニコルソンも、そろそろヴァイアグラなしにはコトをなせざる熟年という役にピタリとはまって見事、なんでも脚本・監督ナンシー・メイヤーズは、当初よりジャック & ダイアンを想定して脚本を書いたとかで、そういう最高の配役を得た、幸福な映画でございます。またジャック・ニコルソンは、お尻を丸出しにする、ダイアン・キートンは全裸を披露する、捨て身の役者魂にも茫然と感動する。脇役キアヌ・リーヴスも大根役者ぶりを発揮して素晴らしいです。やはり、ラヴコメディにおけるスイートなキャラは、大根役者でなくっちゃ! って感じでございますね。

 近年アホらしさをずんずん増すアメリカのロマンティック・コメディの中では出色の出来、バチグンのオススメです。

☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-apr-22