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 Movie Review 2003・10月31日(FRI.)

キル・ビル Vol. 1
レビュー Vol. 2

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 さて『キル・ビル』は、「悪趣味映画」に慣れ親しんでいないと楽しめないのでしょうか? あるいは、70 年代日本・香港のプログラムピクチャ・B 級映画の教養がなければ、つまらないのでしょうか? はたまた「お馬鹿映画」とレッテルを貼り、スカして楽しむものなのでしょうか? 私は断じて「否」と言いたい。なぜなら、『キル・ビル』は、「映画革命」だからである! ババーン!

 映画の革命といえば、まず「ヌーヴェル・ヴァーグ」が思い浮かぶかと存じます。ヌーヴェル・ヴァーグがどのように革命的であったか? というと、スタジオで修行を積まなくても映画監督になれるようになった、とか、高感度フィルム使用で大仰な照明がなくても軽快に屋外で撮影できるようになった、とか、色々ありますけれど、真に革命的だったのは、当時、批評家から黙殺されていたヒッチコックやハワード・ホークスを「作家主義」作家としてリスペクトし、映画の価値基準をガラリと変えてみせた点にあるのであった(って、生半可な知識で書いております)

『キル・ビル』で、映画の価値基準は大きく変わる。タランティーノはプログラムピクチャ・B 級映画こそが「映画」である、と高らかに宣言します。もはや B 級映画を、「B 級」と呼ぶべきではない。ただ「映画」と呼べばよろしい。新しい価値基準においては、ブルース・リーは神であり、リスペクトすべき監督は深作欣二、石井輝男など、日本のプログラムピクチャを支えた監督たちなのです。……って全然新しくない気がしますが、それはともかく、近頃のアメリカ映画ときたら、マーケティング重視、CG 満載のイベントムーヴィーばっかり、そんなもん全然面白くない! 白人が作る映画より、日本映画・香港映画の方がよっぽど面白いんだよ! と、タランティーノがついに白状してしまった、というか何というか。フランソワ・トリュフォーが論文『フランス映画のある種の傾向』(私は読んでませんが)で、フランスの監督をバッサリ切り捨て、ヒッチコックのような映画を撮ろうとした、そんな感じ、というか何というか。

 そういえば、『ゴダールの映画史』という映画(ヴィデオ?)がありましたが、日本・香港映画からの引用に溢れた『キル・ビル Vo.l 1』は、「タランティーノの映画史 1-A  日本・香港編」と呼ぶべき作品、メキシコでロケされたらしい『Vol. 2』は「映画史 1-B  マカロニ・ウェスタン編」なのかも? タランティーノは膨大な映画の記憶から、自分が賞賛してやまない映像と音楽を取り出し、再構成した、それが『キル・ビル』ということでして、元ネタをほとんど知らなくても、『ゴダールの映画史』を面白く見ることが可能なように(可能ですよね?)、B 級映画の教養が無くても『キル・ビル』を楽しむことは可能。『キル・ビル』も、カッコいい映像と音楽のコラージュとして享受されればよい。サンタ・エスメラルダ『悲しき願い』のイントロが流され、雪の庭園で繰り広げられるオレン・イシイとザ・ブライド一騎打ちの美しさに、呆然と感動せよ! っちゅうわけでございます。

 また「映画革命」といえば、「映画革命」をゲリラ戦で成し遂げようとした『セシル・B ザ・シネマウォーズ』が思い起こされるかと存じます。『キル・ビル』において、セシル・B がやろうとしたことをタランティーノが合法的にやっちゃった、みたいなもので、ユマ・サーマン、ルーシー・リュー、ダリル・ハンナを拉致、カンフーの修行を受けさせ、「役作りのため」と称して B 級映画を見せて洗脳、変な日本語をしゃべらせる……いやまったく素晴らしいです。タランティーノ・フォーエヴァー!

 と、そんなワケのわからないことはどうでもよくて、私たちは、まだ、前半『Vol. 1』を見ただけ、この時点でゴチャゴチャ言うのは、映画の途中でブツブツ文句言うのと同じ(迷惑)、アレコレ評価を下すのは間違いでしょうな、と一人ごち、『Vol. 1』の余韻に浸りつつ、ジッと押し黙って、『Vol. 2』の公開を待つ私なのでした(ちなみに下記の☆による点数は、映画の評価ではなく「オススメ度」です)

「映画革命」の公開に立ち会い、映画史が書き換えられる瞬間を目撃したい方にバチグンのオススメ。というかタランティーノ、アクション初演出にしてはザ・ブライド VS ゴーゴー夕張とかバリバリ面白いし、何よりアクションシーンになっても眠くならないのが最近のアメリカ映画にしては凄いではないですか。とはいえ、近年のアクション映画の名品『グリーン・デスティニー』『HERO』『座頭市』ほどにはアドレナリンが出ないし、タランティーノお得意の、時間軸をずらす語り口は、果たして効果的なのでしょうか? 最初に、過去のしがらみをはっきりさせていないので、「復讐」の道を突き進むザ・ブライドの怨念に説得力を持たせられていないのでは? とか色々ありますけれど、ジッと押し黙って、『Vol. 2』の公開を待つ私なのでした。バチグンのオススメ。

☆☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-oct-30;

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