京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

Home > Reviews > 03 > 0515
 Movie Review 2003・5月15日(THU.)

アントワン・
フィッシャー
きみの帰る場所

 アメリカ海軍、空母勤務水兵アントワンは、喧嘩っ早い問題児。懲罰をくらい、ついでに精神科医にかかることを命じられます。嫌々カウンセリングに訪れてみれば、そこにいたのはデンゼル! ぽつりぽつりと語り出されたアントワンの過去とは…。ババーン!

 みなさまの予想通り、やさぐれていた孤児アントワンが、デンゼルに癒され、ガッツある黒人に成長、彼女もゲット、失われていた家族を取り戻す、というお話。意地悪な見方をすれば、海軍にはいいカウンセラーがいるし、彼女だって出来ちゃうよ! という黒人向けの海軍 PR 映画ですし、アントワンが見る見る癒されていくのも「そんなうまいこと行くか?」、というか、性格上の問題がすべて過去のトラウマによるもの、みたいな感じで困っちゃう、というか、カウンセリングで語られる過去の思い出って、よく捏造されていると聞くが、どうなんでしょ? とか、色々と疑問を呈さざるを得ないのです。しかし! 初監督デンゼルの丁寧な演出は、静かでありますが、沸々と煮えたぎる魂(SOUL)がこもり、(ネタバレですけど)、アントワンの夢が叶うシーンに私は滂沱たる涙を流したのでした。デンゼル最高!

 やはり、さすがデンゼル、俳優の自然な表情をとらえるのに長けており(適当)、例えば恋人同士の何気ない会話シーンは、ジョン・カサヴェテスを彷彿とさせます。と、いうか、黒人俳優の顔が脇役にいたるまで素晴らしく良いのです。キャスティングの勝利。アントワンの友達、育ての母、(ネタバレですけど)実の母など、顔だけで彼/彼女の人生が想像できる、もの凄い顔です。キャスティング・ディレクターは、ロビ・リード=ヒュームズ(Robi Reed-Humes)という人で、IMDb で調べてみれば、スパイク・リーの多くの作品や『パンサー』などブラック・ムーヴィーの名品の数々に参加していることがわかります。アカデミー賞に「キャスティング・ディレクター賞(ブラック)」があれば、受賞間違いなしですね。

 そんなことはどうでもよく、アントワンの成長とは、トラウマが癒された結果、というより「言葉」を操れるようになったから、と申せましょう。そう、この作品は、黒人にとっての「言葉」の重要性を描いた作品でもあります。当初、アントワンはデンゼルとの会話を拒否する。この頃のアントワンは、「言葉」に不自由し、兵隊仲間からからかわれても上手に言い返せず、いきなり殴りかかる阿呆です。しかし、デンゼルとの会話、デートのシミュレーションで訓練を積み、アントワンは恋を語り、ポエムをたしなんでデンゼルにプレゼントするまでになる。

 母親との対面シーンは、言葉を操れる黒人と、そうでない黒人を対比します。(ネタバレですが、)アントワンの母は、最後まで押し黙ったままで、言葉を操れない黒人の人生の過酷さを、その、もの凄い顔ににじませるのであった。

 デンゼル初監督にしてなかなかの秀作ですが、ちょっとラストが甘いかも? やはり、ラストは、一人前の兵隊に成長したアントワンがイラク攻撃に参加、イラク兵を殺しまくる! そしてバグダッドに入城、現地の子どもに「ドシタノ? ダイジョブ」と日本語で語りかける……それならば秀作の域を脱してもの凄い傑作になったであろう、ってよくわかりませんが、ともかく、黒人がいっぱい出て来ますのでブラックムーヴィー好きは勿論のバチグンのオススメ。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-May-15;

関連記事
店主の日記:2003・5月1日
アントワン・フィッシャー

レビュー目次


←この前のレビュー