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 Movie Review 2003・6月6日(Fri.)

エニグマ

「エニグマ」とは“謎”の意味だそうで、第二次大戦中ドイツ軍が使用した暗号システム。傑作『U-571』は、ドイツ軍 U ボートからエニグマ暗号機をいかに盗むか? という映画でしたね。もし盗まれたことが、ドイツ軍にさとられてしまえば、システムが変更されてしまって、努力が水の泡となる、さとられずにこっそり盗むという作戦は可能なのか? 果たして極秘作戦の行方は? ババーン! …って、ああ『U-571』は面白かったなー。

 それはともかく、そのエニグマ暗号機が主役の映画がついに! チャーチル首相の密命を受け、数学者アラン・チューリングが暗号を解くために大奮闘! ババーン! …という映画だったらどんなにか素敵でしょう。ところが、主人公はチューリングをモデルにしているのですけど、トム・ジェリコという名に変えられております(原作ですでにそうなっているようです)。また、チューリングはゲイセクシャルだったのに、トム・ジェリコは任務もほどほどに、元恋人(女性)を追いかけまくるというお話で、チューリングを重ねて見ることもできず、うーむ、エニグマ解読の面白さや、チューリングの活躍を期待するとガッカリではないですか。って、そんなこと期待するのは少数なのかも知れませんが、そういうことに興味がない人が『エニグマ』という題名の映画を見に行くのかどうか。

 そんなことはどうでもよく、そもそも「暗号解読」は、われわれ凡人には謎に満ちた世界なのに、さらに「元彼女の失踪」という新たな謎をわざわざフィクションで付け加えるというのは、屋上屋を重ねるというか、ワケがわからないというか、何が面白いのかさっぱりわからないのですね。

 と、いうか、『暗号解読』(サイモン・シン著)などを読んで、エニグマがどういうもので、どのように解読されたか? を了解しておればよいんですけど、この『エニグマ』では、その辺の事情がさっぱりわからず、そういう基本的な事項をはっきりさせないまま謎が謎を呼んでも、謎が深まるばかり、というか、ストレートに、わかりやすく描けば、面白くなり得る題材を、どうしてこうひねくりまわしてしまうのかが謎です。ちなみに脚本は『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』のトム・ストッパード。ひねりがちな人ですね。

 どうも最近、「映画で数学の面白さを描こう」と意図してかどうか、数学がモチーフの作品が増えております。『π』『CUBE』、数学者が主人公の『グッドウィル・ハンティング』『ビューティフル・マインド』、そしてこの『エニグマ』。しかしながら映画はまだ数学の面白さや美しさを描く術を知らないので、ついつい「美女の失踪」という、何度も使われてきたネタに頼ってしまう、というわけですね。

 それはともかく、レプリカだそうですが、エニグマ暗号機や、暗号解読に使われた“チューリング・ボンベ”が稼働する光景は、うっとりするほど素敵なのでオススメです。とりあえず、原作『暗号機エニグマへの挑戦』(ロバート・ハリス著/新潮文庫)を読んでみようと思いました。

☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-Jun-6;

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