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 Movie Review 2003・2月19日(WED.)

ナビゲーター
ある鉄道員の物語

 ケン・ローチ監督 2001 年の作品。英国鉄道民営化(1993)とは何であったか? 鉄道民営化は、鉄道員に何をもたらしたのか? …をドキュメンタリータッチで描き出します。脚本のロブ・ドーバーは、線路の保線や事故復旧に携わる元鉄道員で、自らの体験を脚本化したそうです。

 映画の前半は、民営化をさほど気にしない鉄道員たちの和気あいあいとした日常を丹念に描きます。

 会社の管理職となった男が、朝礼で諸注意を垂れます。「これからは今までのようには行かないぞ。死傷者は、年間で定められた上限を超えないようにすべーし」。

「ぎゃははははは! 上限って何や?!」労働者たちはゲラゲラ大笑い。バカウケです。

 管理職「えーっと、年間 2 名まで…」

 労働者「あほ! ワシら何年も死傷者出したことないで!」

 …と、笑い飛ばしていたのも束の間、労働者たちはのっぴきならない状況に追い込まれていくのであった。生活は質素であっても、彼らには鉄道員としての誇り、熟練労働者同士の仲間意識があったのですが、リストラ退職、日雇い労働者となって、誇り、熟練の技術、仲間意識は粉々にうち砕かれていきます。

 日本においても国鉄分割民営化後、広告の効果や様々なサービスによって、JR って国鉄よりもよくなったかも? と思わないではないですが、ホーム転落事故、トンネル内壁剥落事故が続発する事情は、この『ナビゲーター』で描かれているものと同様なのでしょう。100 年以上かけて鉄道員が築き上げてきた、事故防止、人命尊重のノウハウも、資本主義は後先考えずに破壊していくのであった。

 と、「私はマルクス主義者である」と公言してはばからないケン・ローチらしく、鉄道民営化に対する考え方は一点の曇りもなく明解であります。民営化の実態を告発するキャンペーン映画ですが、『ブレッド & ローズ』がそうであったように、スコブル付きの面白い映画なのであります。日本イタリア京都会館での上映には、イギリス人と思しき外国人の方が来られており、日本人が笑わないシーン、またはクスリと微笑むだけのシーンで大爆笑されておりました。微妙な英語のニュアンスがたまらなく可笑しいみたいですわ。

 笑っているうちに悲劇に見舞われ、鉄道員たちは呆然と立ちつくすのみ。民営化政策に対して反撃のアクションを起こしえなかった鉄道員たちの無邪気さ、それは職人の美質ではありますが、まったく無策、やられっぱなしであったわけで、余りにも無邪気すぎた、とケン・ローチのリアリズムは容赦なく描き出すのでした。例えば、代表者が全員のタイムカードを代理打刻して遅刻者を生まないなど、労働者の誤った連帯の場面も描かれており、うーむ、リアリズム。というか、労働者の側には利潤・効率という観点がすっぽり抜け落ちており、サッチャリズムに有効に反撃し得なかったイギリス労働者の弱点を見つめているのであった。

 救いも展望も示さない結末こそ、ケン・ローチ。私は、重い足取りで劇場を後にしたのでした。ズーン。バチグンのオススメ。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA

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