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 Movie Review 2002・10月17日(WED.)

Dolls〈ドールズ〉

 北野武監督、久々の傑作。人によって評価は色々でしょうが(当たり前)、私の場合は、『その男、凶暴につき』から『キッズ・リターン』までは傑作ぞろい(『みんな〜やってるか!』含む)、『HANA-BI』でガックリと来て、『菊次郎の夏』『BROTHER』でボチボチテンポを取り戻し、今回『Dolls 〈ドールズ〉』でやっと『キッズ・リターン』クラスのレベルに戻った、という感じです。ただレベルを回復しただけではなく、圧倒的な「映像美」を獲得している。

 振り返ってみれば、かつて北野監督は「映像美」という言葉とは無縁なところでザックリした映画を作ってきました。ある日卒然と絵心に目覚め、見た目にも美しい映画を撮ろうとしたのが『HANA-BI』ではなかろうか? 絵画的な要素を導入しようとして、自作の絵画をそのまま使っちゃったわけです。北野スタイルは『キッズ・リターン』でいったん完成するが、それに絵画的要素がブチこまれて壊される。その後、『菊次郎の夏』『BROTHER』で、スタイルの再構成が試みられる。

 今回、『Dolls 〈ドールズ〉』では、ついに「見た目に美しい映画」を作りえている。様式美が生まれている。大量の風車(かざぐるま)が回るカットとか、秋から冬へと変わるシーン――赤い紐が道路の紅葉を掻くと雪道に入り、荒涼たる冬景色が広がる――とか。文楽公演を撮ったシーンのカット割りなど、市川崑監督作かと思いましたよ。私は。

 いやいや、「これはどうか?」と思うところも多々ありますよ。冒頭、ロマンチックな音楽が流れ、なぜかデザイナーズブランドに身を包んだ「つながり乞食」が登場、私は激痛に襲われ頭を抱えました。アイドルの追っかけ青年がお洒落なデザイナーズブランドを着ているのもどうか? というか、なぜ登場人物のほとんどがデザイナーズブランドの服を着ているのでしょうか? 80 年代へのオマージュか? 「出世のために社長令嬢と結婚する」という設定は安直過ぎるけれども、みんなデザイナーズブランドを着ていた 80 年代に時代が設定されているなら、わからないでもない。か?

 そんな服のことはどうでもよくて、いったん物語が始まれば痛みは消え失せ、服のことはどうでもよくなる。やはり北野監督は圧倒的なストーリーテラーなのであります。北野監督でなければ語り得ない物語が、美意識の横溢する映像によって、切れ味満点の編集がほどこされて綴られていく。至福の瞬間。夢にうなされる菅野美穂、三橋達也と松原智恵子のツーショット、海を眺める深田恭子…などなど、私は何度も「素晴らしい!」と涙したのである。社会からはみ出した者、ドロップアウトした者たちに圧倒的な美を見出していく北野監督の視点は、そのまま戦前からの日本映画の伝統に連なるものである。『無法松の一生』『蜂の巣の子供たち』『手をつなぐ子等』『どですかでん』…などなどなどなど。

 やっぱりタケシ最高! バチグンのオススメ。

☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2002-Jan-17;

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