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Book Review 2002・5月31日(THU.)

アフガニスタンの仏像は
破壊されたのではない
恥辱のあまり崩れ落ちたのだ

 モフセン・マフマルバフ著

 タイトルの意味するところは、本文より引用しますと、

 ついに私は、仏像は誰が破壊したのでもないという結論に達した。仏像は、恥辱のために崩れ落ちたのだ。アフガニスタンの虐げられた人びとに対し世界がここまで無関心であることを恥じ、自らの偉大さなど何の足しにもならないと知って砕けたのだ。

 …です。バーミヤンの石仏破壊に世界の人びとは注目したけれども、タリバン、アフガニスタンには充分注意を向けなかった。それは月が指さされているのに月を見ないで指を見つめたようなものである、崩れ落ちた石仏も崩れ甲斐がなかったのではないかいな? …というところ。

 著者マフマルバフは、アフガニスタンの隣国イランの映画監督。病気の妻のため見せ物として自転車に一週間乗り続けるアフガン難民を描いた『サイクリスト』は、イラン国民のすべてが見たといわれる大ヒットを記録したそうです。この本は、『サイクリスト』以降も隣人としてアフガニスタンを注視してきたマフマルバフが、映画『カンダハール』を撮影するにあたって綿密な調査を行い、映画では描ききれなかったアフガニスタン分析を綴ったレポートです。

 映画『カンダハール』は、メチャクチャ悲惨であると同時にその常軌を逸した光景に、「これは吉田戦車のマンガか?」と、私は映画館で何度も爆笑して顰蹙を買ってしまったのですが、本でも声高に悲劇を泣き叫ぶでなく沈着冷静にアフガニスタンの歴史をふりかえり、経済状態を記し、アフガニスタンはなぜ麻薬を作るのか、タリバンとは何か、オマル師とは? に迫り、「アフガニスタンは映像(イメージ)のない国だ」など映画監督らしい指摘をします。

 マフマルバフは「複雑なことを単純に語るのが芸術家の役割」と言います。マフマルバフの分析は明解かつわかりやすく、200 ページの小冊子ですが「ふむふむ、なるほど」と納得するところばかり、アフガニスタンにもっとも近いところにいる映画監督の文章であり、映画『カンダハール』をご覧になった方はもちろん、未見の方もぜひ。ほんの 1 時間程度で読めますが、その 1 時間の間にアフガニスタンでは少なくとも 12 人の人びとが戦争や飢餓で死に、さらに 60 人が他の国へ難民となって出ていっている。私たちは、映画『カンダハール』のように、決してカンダハールにたどり着けないのかも知れない。しかし、カンダハールが存在していることを忘れないでいることはできる、と、サイクリスト私はついついマジになってしまうのでした。

 印象に残ったエピソードをひとつ。マフマルバフは、アフガニスタン国内の飢餓に苦しむ人びとの映画を作るため、アフガニスタン行きの国連の飛行機に乗せてもらうよう申請します。一刻も早く出発をしたいマフマルバフに国連オフィスは、1 カ月後の出発を勧めてきます。

「私たちの仕事が遅れます。早ければ早いほどいいのです」と言うマフマルバフに、国連スタッフ答えて曰く、

「今はあまり餓死者がいませんから。来月、もっと寒くなれば、ずっと沢山の死者が出ます。2 月に行くことをお勧めしますよ。あなたの映画がもっと興味深くなるでしょう」。

 うーむ。

BABA Original: 2002-May-31;

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