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 Movie Review 2002・6月26日(WED.)

ふたつの時、
ふたりの時間

 蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督の新作です。構図の取り方、光線の具合、意表をつく俳優の動き、圧倒的に寡黙な脚本…と、なんだかよくわからないのですが私の大好きな監督であります。わー。

 またまた李康生(リー・カンシャン)が主演しております。『青春神話』『愛情萬歳』『河』、そして『ふたつの時、ふたりの時間』での李康生の役名は一貫して「シャオカン」、両親も同じ俳優。それぞれ別個の映画であると同時にシャオカンのクロニクルでもあるのですね。いつの間にか、フランソワ・トリュフォーの「アントワーヌ・ドワネルもの」みたくなってきたなー、え? あなたアントワーヌ・ドワネルご存知ない? オイシン君のために説明しておきますと、ヌーヴェル・ヴァーグ代表監督フランソワ・トリュフォーは『大人は判ってくれない』でジャン・ピエール・レオー扮するアントワーヌ・ドワネルの物語を語り始めます。以降このキャラクターに愛着を持ち続け、『アントワーヌとコレット/二十歳の恋』(短編)、『夜霧の恋人たち』、『家庭』、『逃げ去る恋』の連作となります。

 すなわち、「トリュフォーのドワネルもの」にならって、「蔡明亮のシャオカンもの」とか言うのかな? ……なーんてこと考えながら見ていたら、映画の中でシャオカンが借りてきたビデオはなんと『大人は判ってくれない』! しかも!! ……おっと、ネタバレになるので書けません。とてつもなくビックリして私、気絶してしまいました(約 0. 01 秒)。やはり映画は予備知識なしで見るのがイチバンですね。

 …なーんていう映画好きみたいな話はどうでもよく。前作『河』でえらい目にあったシャオカンの父親、ボーッとしてたらいきなり死亡。しかしシャオカン、相変わらずの無表情ぶり、何を考えているやら考えていないやら。うーん、素晴らしい。

 ふとシャオカンは、これからパリへ行くと言う娘さん(陳湘/チャン・シアンチー)と知り合います。…むむむ、これはついにシャオカンのラヴストーリーか? …と思いきや、いや、ラヴストーリーなんですけどね、破格のラヴストーリーです。

 説明的な描写は一切なし、以下は私の憶測なのですが、シャオカンと娘さんの出会いは、「小指が赤い糸でつながってた」とか、「ソウルブラザーを見つけた」と言われる類の出会いなんですね。運命の出会い。しかし彼女は意味なくパリへ出かけ、二人は二度と出会うことがない。パリと台北で別々に、微妙なシンクロニシティを示す二人の行動が描かれたのち、普通の映画ならば二人は再会するところでありますが、蔡明亮監督の映画にあってはそのような予定調和は決して許されない。人間とはどこまでいっても決定的に孤独な存在なのだ、との真実が描き出されます。す、す、素晴らしい。心が洗われました。

 それが「恋」なのかどうかもわからない二人は、ただわけもわからず枕を涙で濡らすのみ。息子の“永遠の恋人”を見守り続けていた父親は、大いなる諦めを抱いて消え去っていく、と。

 RCS 京都みなみ会館での上映は終わってしまいましたので、ぜひ、ヴィデオで『青春神話』から「シャオカンもの」をご覧ください。…って、誰が見ても面白いタイプの映画ではないことは重々承知、トリュフォー、ブレッソン、小津安二郎なんかが好きな方にはバチグンのオススメかも。知らん。とりあえず意表をつかれる大爆笑シーンもあり…って、ガーン、誰も笑ってない! …また静まりかえった劇場に笑い声をとどろかせてしまいました。すいませーん。

☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2002-Jun-26;

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