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 Movie Review 2002・6月7日(FRI.)

KT

 1973 年、当時韓国朴政権打倒を叫ぶ野党指導者・金大中氏が東京都内ホテルで拉致され 5 日後、ソウル自宅前で発見された、いわゆる「金大中氏拉致事件」。虚実とりまぜ「映画芸術」編集長の荒井晴彦が脚本化、『顔』などの阪本順治が監督しました。

 こう、実際の事件を題材にして圧倒的なポリティカル・スリラーを撮る監督といえば、コンスタンチン・コスタ・ガブラスの名が上げられましょう。コンスタンチン君とは関係ないのですが、『Z』『戒厳令』『ミッシング』はバチグンの面白さかつ、まあ、なんと申しましょうか、画面に「政治」が充満しているというか。スリリングにストーリーを語り、ズーンと後味が腹にもたれます。それと比べるのも何ですが、『KT』、政治を題材にしながら政治が稀薄だと思うのですね。ラストシーンなんか、いかにもポリティカル・スリラー風なんですけど。いかにも過ぎると言いましょうか。

 主人公、日本人自衛官/情報将校「富田満州男」(佐藤浩市)。彼の行動原理がよくわからないのですね。三島由紀夫に共感を抱く国粋主義者がなぜ KCIA の謀略に協力するのか? パンフレットの山根貞男による荒井晴彦へのインタビューを読みますとね、脚本段階では、満州引き揚げ時にソ連兵に家族を虐殺され「反共」を信条としている、との設定だったそうです。反共で一致して KCIA に協力するのはいいとして、きっと天皇を信奉しているはずの彼が、日本人を恨みまくっている韓国人と易々と協力関係を築けるのでしょうか? 主人公の政治的立場がよくわからず、韓国人との確執もあまりなく、気持ちの悪いことになっております。

 なんか、KCIA の暗殺作戦リーダーとの間に友情が芽生えているようですが、何ちゅうか、金大中氏であれ誰であれ、拉致監禁して暗殺を企てるっちゅうんは、卑怯なテロだと思うのです。そういう卑怯なことをしているのに妙に悲愴ぶられてもナー、と思いませんか?

 他方、「富田満州男」と対立する新聞記者は「神川昭和」。こちらは「特攻崩れ」、戦後は一転して日本共産党に入党、共産党が武装闘争路線を放棄したため共産党を脱退し、今はイエロー・ジャーナリストという設定で、もし、この「昭和」と「満州」が激しくイデオロギー闘争を繰り広げればウットリする素敵な政治映画になっていたことは想像にかたくないのですが、何でも阪本順治監督曰く「脚本に忠実に映画化したら 4 時間くらいになってしまう」とアレコレ抜け落ちてしまったみたいです。

 唯一の救いは、在日朝鮮人二世で金大中氏のボディガードをつとめる筒井道隆。『GO』的な、国籍は韓国ですがすっかり日本人化していたものの、金大中氏の人柄に触れ、祖国愛に目覚めるという役柄で、共感を呼びます。

 まあ「約 30 年前にこういう事件があった」ということは記憶しておくべきでしょうから、事件をよく知らない方にはオススメです…って私もよく知らなかったので面白かったです…ってどっちやねん。新京極・弥生座 1 他で上映中。

☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2002-Jun-07;

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