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Comic Review 2002・2月18日(MON.)

並木橋通り
 アオバ自転車店

 宮尾岳氏による、ヤングキングにて現在連載中の「自転車店」漫画の最高峰。4 巻まで単行本が出ております。

 毎回異なる種類の自転車が登場する一話完結ほのぼのストーリーで、まあ、はっきり言って犬も食わないようなほのぼのぶりなのですが、ストーリーに自転車が絡んだ途端、圧倒的な感動連作に仕上がるとは驚きです。「父のスポルティーフ」「坂道のオンナ」「母ちゃんの流れ星」「下りバカ一代」…と並んだ各話のタイトルを見ただけで泣けてきませんか? 泣けて来ませんか。そうですか。やはり、自転車最高! と私は溢れる涙をこらえつつ読み進んだのでした。

 レース用高性能自転車=ロードレーサー、段差も乗り越えられる頑丈/山道用自転車=マウンテンバイク、曲乗り用自転車= BMX など有名どころを筆頭に、長距離サイクリング用自転車=スポルティーフ、輪行用前後分割自転車=デモンターブルのような、一般にはあまり知られていない種類、さらに「スポーツ車」のみならず、いわゆるママチャリや新聞配達用自転車、折りたたみ自転車、電動自転車、リアカーなど、うーむ、自転車ってホントに色々種類があるんやなあ(ってリアカーは自転車じゃないんですけど)、と感心することしきり。

 20 年前の“プジョー”のミニサイクルを修復した作者・宮尾氏の実体験を元にした短編マンガ「あの空とおんなじ」(単行本 1 巻所収)が好評で、それが発端となって自転車店が舞台になった「誰が読むねん!」とつっこまずにはおれない自転車店マンガが生まれたわけですが、作者の自転車に対するこだわり・愛情が隅々にまで染み込んでおり、まあ、素晴らしいわけです。ヌルいけど。

 65 万円のツール・ド・フランス優勝モデルレプリカ“ビアンキ”、80 万円のビンテージフレーム“ルネルス”などの高級車も登場しますが、「自転車は高ければいい」というスタンスではない。自転車が欲しくてもなかなか買えない貧乏人のエピソードも多数登場し、そんな貧乏人が苦労の末に自転車に乗る、その瞬間、何ものにも代えがたい圧倒的な感動を手に入れる。「自転車に貴賎なし」なんですね。多種多様な自転車が存在しますが、それは「人生」が多種多様であるのと同様であり、何よりも乗る人の身体、使用目的、人生にベストマッチの自転車こそが最高の自転車なのである、と。私は一つの真理を見出し、呆然と感動したのでした。

「あらゆる動物の中でもっとも効率よく移動するのは“鳥”だが、人間が自転車に乗るとその移動効率は鳥を上回る」…なんてことを申しますが、「自転車に乗る」とは、地球でもっとも効率よく移動できる圧倒的な能力を手に入れることなんですね。生まれて初めて自転車に乗れた瞬間、長年ほったらかしにしていた自転車に再び乗った瞬間、いままで自転車に目もくれなかった者が自転車に目覚める瞬間――各短編は自転車と人の出会いを様々な角度から明らかにしていきます。いやー、自転車最高!

 真・サイクリストの方から見れば、ヌルいことこの上なしでしょうが、にわかサイクリスト(またはファッション・サイクリスト)私にすれば自転車の魅力に満ちあふれたこのマンガ、自転車好きはモチロン、そうでない方にも広い心で読んでいただきたい、そんな気持ちで一杯です。いや実際、4 巻になるとネタ切れ感がプーンと漂うんですけど、オススメでございます…って普通の本屋には置いてないだろうし、マンガ喫茶にもあるかどうかわかりませんが、Amazon. co. jp とかでご注文くださいー。

BABA Original: 2002-Feb-18;

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