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Book Review 2002・4月10日(WED.)

仕組まれた9.11

田中宇(さかい) 著(PHP)

 遂に出たか! 陰謀本!! っていうか、もしかしたら私の知らない所で、すでに「9.11」に関する陰謀本は大量に出ているのかもしれないけれど、あの 9 月 11 日の「米中枢同時多発テロ事件」はアメリカによる自作自演だった! かもしれない、ね? という内容の本。こういった陰謀本はどうしたって胡散臭く、トンデモ本である可能性が高いのだけど、どうしてどうして、この本はそんなものではない。著者は、陰謀本のたぐいがトンデモ本に堕する危険性を充分承知のうえ、きわどいところをビシビシ突いてくる。結果として、エンタテインメントとしても楽しめる、非常に有益かつ愉快な政治本ができあがった。

 身も蓋もなく言ってしまえば、アメリカという国は、陰謀というか謀略をしかける国なのだ。真珠湾しかり、湾岸戦争しかり。だから今回の事件だって、充分に陰謀の可能性がある。もっと乱暴に言ってしまえば、大きな意味では陰謀・謀略なのだ。陰謀者がどこまで筋書きを書き、読み切っていたかは別にして。

 例えば真珠湾でいえば、ルーズベルトはどこまで真珠湾攻撃のことを知っていたか、という論争がある。最近話題になったロバート・スティネットの説によれば、日本軍の無線は完全に傍受されていて、真珠湾に向かう日本軍の動きまですべてルーズベルトは知っていたことになる。が、そんな訳ないだろう! と各種の証拠をあげて反対する勢力もたくさんいる。そうやって、ひとつひとつのお互いのあげる証拠について、それぞれが細かい詮索をやる訳だが、はっきりいって、専門家でもない我々には、そんな細かい論争の勝ち負けなど分からない。

 しかし、おおきな流れなら分かる。大きな意味でいえば、真珠湾は陰謀・謀略だったのだろう。ルーズベルトは、戦争に反対する国民をなんとか説得して戦争に突入すべく、様々な策を弄していたし、そのためにはまず日本軍に先に手を出させるために、日本を過酷に追いつめていた。日本の行う和平工作をすべて妨害し、とにかく日本が戦争に踏み切るように、色んな方面から責め立てた。結果としてたとえ 12 月 8 日(日本時間)の真珠湾攻撃そのものを予測していなかったにせよ、自らの思惑どおり日本が奇襲をかけてきたので、「よっしゃ!!」とガッツポーズをきめたのだ(あれ? 神に感謝したんだったかな)。謀略成就せり! という訳だ。

 同じ様な意味で、「9.11」も、謀略だった、と言えなくもない。あの日に飛行機で貿易センタービルに突っ込む、という筋書きを書いて、その通り実行したかどうかはともかく、アメリカはタリバンを叩きたがっていたし、自国の不況を吹き飛ばすために戦争をしたがっていた。また中東の人々を追いつめまくっていた。となれば、いつかは追いつめられた中東の人達が、アメリカになんらかの攻撃を仕掛けてきて、それを機に戦争に持ち込む、という筋書きなら充分ありえるではないか。

 問題は、どこまで深く・細かく、陰謀は張り巡らされていたのかだが、著者の田中宇は、様々な証拠をあげて、色んな可能性をあげていく。ブッシュ一族とビンラディン一族との深い繋がり、自作自演の炭疽菌事件、ソマリアに仕掛けようとしていた謀略、アメリカの「影の政府」の存在……。

 画期的なのは、これらの論拠となる新聞記事や雑誌記事、論文、文書などに、インターネットを使って読者が簡単にあたれるようになっていることだ。著者の田中宇のやっているホームページに、これらの文書へのリンクが集められており、例えば「自作自演の炭疽菌」に関することならば、本のその部分に数字が書いてあって、リンク集の中のその数字をクリックすれば、論拠とした文書が出てくる、という仕掛けだ。これによって、読者は著者の主張を検討できるし、また自分なりの推理を組み立てることもできる。

 まあ、あの事件が陰謀だったのかどうかという事は、まず分からない性質の事柄だろう。が、ものごとには何だって裏がある、という事を学び、その裏を読む訓練をするには最適の本だと思われます。よってお薦め。1400 円(税別)です。

オガケン Original: 2002-Apr-10;

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