京都三条 カフェ・オパール Cafe Opal:Home

Home > Reviews > 01 > 0514
Movie Review 5月14日(MON.)

 オパール道場での奮闘ぶりを読み、すっかりファンになったおいしんくんに敬意を示して、私も、「ただのジュード・ロウ好きが観た『スターリン・グラード』」を。

スターリングラード

“絶世の美男子”っていう形容はジュード・ロウのためにあるのね、と『イグジステンズ』の名演技で認識してからというもの、彼が出る映画はすべてチェック。『スナッチ』を観にいって、『スターリングラード』の予告編を目にした時の衝撃といったらもう!! 本編を観る前にアドレナリン出尽くしてしまいましたよ。あ、前ふりはいりませんか。それではさっそくレビューを。

 こちら、ストーリーは BABA さんが詳しく説明して下さっているとおり、バリバリの戦争もの。「久しぶりに大画面でジュードが!」と見とれている暇もなく、容赦ない銃撃戦が開始。列車で河岸まで連れてこられたソ連の兵士たちは、船で決戦の地スターリングラードへ向かうのですが、たどり着く前にナチの空軍に攻撃され、30 %ほどは何もできないうちに死亡。また、そのことに恐れをなして海に飛び込んだ者も、自国の兵士に「裏切り者、腰抜け」と怒鳴られながら銃殺されてしまうというありさま。そして運良く上陸をはたした者たちも、ナチとの圧倒的な戦力の差で半数以上が無駄死に。

 この前半 15 分に及ぶ無人称の視点から撮られた映像は、死を強調することもないかわりに、戦う以前に殺されてしまう兵士たちの無残さ無意味さを浮き彫りにします。生きるか死ぬかという極限の状況においては死体の山さえ恰好の隠れ場所になる、という圧倒的な現実が、観客から既存の価値判断を奪ってゆくのです。

 ジュード目当てだった人(私)も、心の準備ができないまま壮絶な戦場に放り出されてしまったため、自然と体に緊張が走り、眉間にはしわが。観客にも戦闘態勢を整えさせるこの導入部は秀逸。凄惨な戦いを目の当たりにした後では、ヴァシリ(ジュード)が砲撃の爆音に合わせて次々とナチの将校らを撃ち倒してゆく姿が妙に清々しく思えたり。

 そしてその活躍を間近で見ていたダニロフ将校により、ヴァシリは祖国の英雄へと祭り上げられてゆくのですが、まあこれは戦略としてはまっとう。

 映画のコピーからメインかと勘違いされかねない女兵士ターニャとの恋は、単なる美男美女どうしの一目惚れ。ターニャがぼさぼさの髪でもひときわ美しい女性だったから、ヴァシリもダニロフも夢中になって後々三角関係に発展もするわけで、これに関しては「やっぱり外見は重要よね」という感慨しか抱けません。このことはヴァシリにも共通し、もし新聞の一面を飾る若き狙撃手が太った醜男だったら、腕は称えられたとしても英雄にはなれなかったでしょう。それにヴァシリとダニロフは、現代でいうならサッカー選手と官僚とでもいうべき立場なのですが、ターニャがヴァシリを選んだのは、同じ体育会系だから理解しやすくそのうえ顔も良かったから、くらいの単純な理由だと思います。

 また、ターニャが弱者としての待つ女性ではなく、知性もあり自ら戦地に赴くだけの力強さを兼ね備えているという設定なのは現代的です。だからこそ権力主義のダニロフは相手にされなかったという見方もできそうです。ただ、そうはいってもダニロフが抱えるルサンチマンは重大で、ちょっと設定を変えれば『リプリー』に。戦争映画に純文学風味を付け加えているのはヴァシリではなくダニロフの存在です。

 とはいえ、兵士たちが雑魚寝をしているところで行われるヴァシリとターニャのラブシーンは素晴らしい。これはまさにエロスとタナトスを象徴するシーンではないでしょうか。明日死ぬかもしれないという緊迫した状況下でのエロスは、緊張感のない腑抜けたそれに比べなんと充溢しているでしょう。平和ボケした脳にはあの強度が羨ましい限り。エロスの本質を見せてくれた点で、ターニャとのエピソードも価値あるものに転化しました。

 メインとなる、ドイツ軍きっての狙撃手ケーニッヒ小佐(エド・ハリス)との対決は、国と国の対決というより男と男の対決として描かれており、互いのプライドをかけた決闘にぞくぞくさせられるのですが、敵でなければよい師弟であっただろうに…ということに思いが及ぶと、やはり戦争の虚しさに怒りが湧き上がります。少年サーシャの純粋さも哀しいです。

 しかしあのラストはどうなんですか? ちょっと納得しかねます。エンドロールが終わってから「あれ絶対死んでるって!」との声があちこちから聞こえたので、皆も同じ気持ちだったようです。

 でも、なぜスターリングラード戦におけるソ連の英雄を、アメリカ・英国・ドイツ・アイルランドが合作? という面白さもあるので全体的にはかなりおすすめ。『ハンニバル』より確実に刺激を与えてくれます。

呑如来:web site >> 呑如来的日常
Original: 2001-May-14;

レビュー目次

Amazon.co.jp アソシエイト