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Movie Review 5月8日(TUE.)

トラフィック

 噂によるとスティーブン・ソダーバーグ監督はイギリス社会派ケン・ローチが大好きだそうで、『イギリスから来た男』ではケン・ローチの長編デビュー作『夜空に星のあるように』を引用し、『エリン・ブロコビッチ』で大企業と個人の戦いを描いて社会派に急接近、今回の『トラフィック』ではムキムキ社会派の本性を現しました。

 メキシコからのコカインの流入をくい止めようと、麻薬対策の国家最高責任者マイケル・ダグラス、囮捜査官ドン・チードル+凄い顔のルイス・ガスマン、メキシコ警官のベニチオ・デル・トロが三つの分野でそれぞれ奮闘します。『トラフィック』の名にふさわしく三分野が青・赤・黄を基調に色分けされており、脱力しつつも猛烈に感動的です。ちなみにソダーバーグが撮影監督も担当、カメラも回して獅子奮迅の働きだったようです。

 更に、麻薬を配達する側、消費する側も存分に描き、アメリカが目下戦闘中の「麻薬戦争」の全貌を描き出します。

 またまた大勢の方々が少しずつ関わりを持ちながら映画が進行する『マグノリア』『走れ! イチロー』的な語り口です。『マグノリア』の場合ドタバタした割にはどうでもいいお話だったのですが、『トラフィック』は見終わった後、ずずーんと腹の底に怒りというか悲しみというかなんというか、良質の社会派作品のみが与えてくれる感動が残ります。「アメリカは麻薬戦争にすでに負けているのだ!」というセリフがありますが、負け戦と知りつつそれぞれの分野でそれぞれの戦いを続ける男たちに、私は大義を重んじる「サムライ」の姿を見て取り、呆然と感動したのでした。ドン・チードル、ベニチオ・デル・トロ最高!

 このような社会派映画にスター達が大挙出演し、アカデミー賞を 4 部門獲得、興行的にも大きな成功を収めたことにも、私は感銘を受け、「ハリウッド映画は皆クズだ」とほざく呆け茄子どもに、「今世界でもっともオモチロイ映画を撮る男ソダーバーグの『トラフィック』を見て自らの蒙を啓きたまえ!」と言いたい、のでした。

 パンフレットによると、なんでもメキシコ経済は現在壊滅状態、麻薬の輸出でなんとか維持されている状態で、アメリカが麻薬を徹底的に取り締まってしまうとメキシコ経済は崩壊し、すると社会主義の炎がメラメラと燃え盛ってしまう、というディレンマがあるようです。『トラフィック』では、そういうアメリカが麻薬戦争に勝てない理由は充分描ききれず、アメリカ・リベラルの限界かしら、と思わないではないですが、あんまりトンガって観客を狭くしても面白くないわけで、ともかくも個人の戦いを重層的に描き、主張を盛り込みつつエンターテインメントとしても超一級品に仕上げたソダーバーグ監督はアメリカ映画の希望の星でありましょう。

 とにかく、21 世紀アメリカ映画を代表する映画です。映画史に新たな名作がその名を刻んだ瞬間に立ち会う為にも、ぜひ劇場に駆けつけてください。『ハンニバル』の無量大数倍オススメです。

BABA Original: 2001-May-08;

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