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Movie Review 3月16日(FRI.)

セックス・チェック
 第二の性

 なんちゅうタイトルでしょうか? 中身も狂っております。

 緒方拳主演。1968 年作品なので、若い! かつて 100 メートル走の有望選手だった緒方拳、第二次大戦のためオリンピックの夢かなわず、鬱屈した日々を送っていたところ、昔の選手仲間から某企業陸上部コーチの仕事を斡旋されます。

 そもそも傲慢きわまりない緒方拳はコーチなんて全然やる気なし。どういうわけか選手仲間の嫁、小川真由美を犯してしまいます。恩を仇で返すとはこのことなんですが、緒形拳がいうには「人間では 100 m 10 秒の壁を破れない。狼にならねばならぬのだ! オレは狼になった。ところが戦争だ。オレは戦場で中国兵を殺し、中国女を犯しまくった。オレはダメなヤツだ。コーチなんかとんでもない!」…。

 何がなんだかさっぱりわかりませんが、コーチの仕事をきっぱり断って去りかけたとき、ヒロコ=若き安田道代に出会います。

 すると緒形拳は、「おおい、こいつの足を見ろ!(モミモミ)オレはコイツをトップ・スプリンターに育てる!(モミモミ)コーチをやらせてくれ!(モミモミ)」…。いきなり出会ったばかりの女子の身体をなで回します。先ほどまでの反省は何処へやら、あっさりコーチに就任。ヒロコ以外の部員には目も暮れず、猛練習を積ませてヒロコは見事 11 秒代の好記録でオリンピック強化選手に選ばれることになります。

 しかしセックス・チェックを受けたところ、なんと、ヒロコは「半陰陽」だった! この展開はタイトルから充分予想できるので、私は「やっぱり…」と、脱力するとともに途方もない感動を覚えたのでした。

 しかーし緒形拳はそんなことではあきらめません。「ヒロコ! オレは、男にならなければ女子記録を破れないと、ヒゲを剃れとかゆって、お前を男にし過ぎた。今度はお前を女にしてみせる!」…。そんなこと出来るんかいーっ! とツッコミつつ、ここでも深い感動に包まれたのでした。

 昼間は猛練習、夜はベッドでハメまくってヒロコを女にするため猛特訓です。やがて遂に、メンスがヒロコに訪れるのでした。目出度し目出度し。晴れてオリンピック選手選考会に挑戦だ!

 なんか馬鹿馬鹿しくなってきましたが、緒形拳の人格の壊れっぷりが感動的です。増村保造監督は後に『スチュワーデス物語』などの大映ドラマを監督したそうですが、こんなところに大映ドラマの原型が存在していたとは、と深い感銘を受けたのでした。

 オリンピックのためには社会通念などもろともしない体育会系の極北ともいえる姿は、決して高度成長期に特有のものではなく、そのまま現代に通ずるのではないでしょうか? 緒形拳のキチガイぶりに哄笑しつつも、私は戦慄を感じていたのでした。そして、緒形拳の人格破綻ぶりは息子の直人に確実に受け継がれ、『北京原人 WHO ARE YOU ?』で開花します。日本映画史の定説をくつがえす作品かも知れませんね。

 これまで、増村保造監督作品を余り見たことがなく、なぜ今、増村保造? 他に回顧すべき映画監督は一杯いるのに? と疑問でしたが、この『セックス・チェック』にはほとほと感動、増村保造こそ回顧すべき監督だ、と確信しました。

 サイト「増村保造レトロスペクティブ」によると、

彼は旧来の日本映画がもつ情緒性を廃したクール & モダニスティックな演出で、知性と激しさが共存する新しい日本映画を作り上げた。しかし、日本映画の新時代を、先陣を切り走り抜けた増村保造は、時代の先を行き過ぎていたのか、これまで充分な評価が与えられてこなかった。彼は『早過ぎたモダニスト』だったのかもしれない。

 …ということで、なんか難しそうだなあ、パンフとかポスターとかお洒落っぽいし、海外で評価が高い映画って退屈なんだよねー、と敬遠される方も多くおられると思います。しかし、上映作品の大半は、そもそも二本立て興業の一本として製作された作品であり、客の入りが悪ければ監督はすぐ干される状況で撮られていますので、観客の興味を鷲掴みにすることにかけてはバッチリです。キャラクターの行動はムチャクチャ、話をひねればいいってものでもなかろう、という気がしますが、意表の突きぶりは感動的です。エロもたっぷり、上映時間も 90 分前後なのでこの機会にぜひ。

 あ、弥生座ナイトムーヴィーはもちろん、みなみ会館でも初公開当時の大映予告編が流されているのもオススメです。

BABA Original: 2001-Mar-16;

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