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Movie Review 6月9日(SAT.)

セシル・B
 ザ・シネマウォーズ

公式サイト: http://www.cecil-b.com/

『ピンク・フラミンゴ』などでカルト的人気を誇るジョン・ウォーターズ監督の最新作です。とは言え、前作『I Love ペッカー』もそうでしたが、マニアのみならず、例えば『パッチ・アダムス』や『フォレスト・ガンプ』に涙する、ごくごく普通の映画ファンも十分楽しめる、ていうか、そういう観客にこそピッタリのウェルメイドな作品です。昔に比べれば毒気が薄れたナー、というか、ヒネくれまくって、ヒネくれているのかヒネてないのか、よくわからなくなっているのですが、とにかく最高! です。ご家族連れにも最適。この先は読まずに、映画館へ直ちに GO ! GO !

 さて中身はというと、映画の現状に対するジョン・ウォーターズの不満というか憤りが炸裂しております(どこまで本気か分かりませんが)。続編やリメイクが大流行のメジャー映画は腐りまくっており、インディーズはと言うと、登竜門であるサンダンス映画祭はあわよくばメジャー・デビューを虎視眈々と狙う監督があふれる体たらく、くだらん映画しか上映しないシネコンに詰めかけるのは、宣伝に乗せられる馬鹿ばっか! パゾリーニ映画祭に客が一人も来ないとはどないやねん! 「こうなったら革命だ! 血祭り血祭り!」と、セシル・B ・ディメンテッド(気狂いセシル・B)は、仲間と共に映画テロを開始します。

 大女優気取りのメラニー・グリフィスを誘拐・拉致監禁。シネコンや撮影スタジオを襲撃、「映画革命」のアジテーション映画の撮影をゲリラ的に行います。メラニー・グリフィスは反発するも、やがて映画テロリスト達に共感を寄せていく…、というのはパトリシア・ハースト事件を彷彿とさせますね。ジョン・ウォーターズはこの事件が大好きで、最近の映画には必ずパトリシア・ハースト本人を出演させているほどですので、思い入れもたっぷりでしょう、…って、しょうもないウンチクでした。

 セシル・B 一派が、それぞれ刺青を入れるほど崇拝する映画監督は、オットー・プレミンジャー、サミュエル・フラー、サム・ペキンパー、ハーシェル・ゴードン・ルイス、デヴィッド・リンチ、ケネス・アンガー、アンディ・ウォホール、ウィリアム・キャッスル、スパイク・リー…よく知りませんが、なんとなくカルトかつスノッブな映画ファンが喜びそうな監督たちですね。これすなわちジョン・ウォーターズお気に入りの監督達なのですが、スパイク・リーが日本の CM で「マ〜ツダ・デミ〜オ」とか言ってるのを知っているのかどうか? どうでもいいことですね。

 この映画は勿論、ジョン・ウォーターズによるメジャー映画批判ですが、同時に「映画好き」批判の映画でもあります。世間には、趣味の欄に「映画鑑賞」と書いてみたり、「好きなもの:映画」とおっしゃる方々が大勢おられますが、セシル・B の「映画好き」ぶりを見れば、そんなこと軽々しく言えるはずがないのです。

 セシル・B とは、「映画好き」の本来あるべき姿です。最も純粋かつ倫理的な「映画好き」なんですね。「映画がそんなに好きなのか!」…好きだったら、今の映画状況に我慢ができないはず。「つまらんかった、おもろかった」と感想を述べているだけではダメだ! 映画に果敢にコミットせよ! 自分が見たい映画を作るのだ! 映画の敵を攻撃せよ! …と、真の「映画好き」を扇動しているのですね。

 左様、映画好きならば、もっと怒らねばならないのです。くだらんパンフレット作るな! 映画のサイトはなんでフラッシュばっかり使ってんねん! 見にくいんじゃ、全部スキップじゃい! つまらん映画を誉める映画批評家は文章書くな! そんな小さいスクリーンで上映するな! おっと、脱線脱線。

 セシル・B は宣言します。「家族は映画の敵だ!」と。「映画が好き」と語ることは、家族、すなわち既成の秩序、体制、俗情に対する宣戦布告に他なりません。「映画好き」とはアウトローなのです。ここで一句。映画好き 死して屍 拾う者無し。

 世間に戦いを挑まずして「映画好き」を自称するのは、欺瞞に満ちた行為です。ただ映画を多く観て感想を垂れ流している自称「映画好き」の方々は、寧ろ「映画の敵」なのです(「アクション映画好き」と「ポルノ映画好き」は味方みたいですが)。ところで、暇つぶしで映画を観たりレビューを書いたりしているこの私、決して「映画好き」ではございませんので、誤解なきよう。

 なんだかんだ言いつつ、猛烈なるプロパガンダを笑いでくるんで見事な娯楽作に仕上がっています。「テクニックは負け犬が使う物だ!」などなど、目頭が熱くなる名台詞も満載です。もう笑うどころでなく、セシル・B の映画への殉教ぶりに、私は熱い感動を覚えつつ、「映画は、最早革命でも起こさない限り腐りつつ死んでいくのだ」とやりきれない思いに包まれたのでした。ともかく笑っている場合ではございません。革命だ! 血祭り血祭り! これを見ていない方とは話もしたくないくらいオススメ。合い言葉はディメンテッド・フォーエヴァー!!

BABA Original: 2001-Jun-09;

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