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Movie Review 7月18日(WED.)

パール・ハーバー

 パニッシュ・バッド・シネマ! 『ザ・ロック』『アルマゲドン』の製作ジェリー・ブラッカイマーと監督マイケル・ベイのコンビがやっちゃいました! 『北京原人 Who Are You?』にも匹敵する、全世界の心に捧ぐ世紀のトンデモ超大作です。

 前半→ラブロマンス、中盤→真珠湾攻撃の再現、後半はドゥーリトル隊による東京初空襲へとなだれ込みます。真珠湾攻撃の映画というと日米合作による『トラ トラ トラ!』がありますが、日本人にとっては痛快巨編で大ヒット、アメリカでは全然ヒットしなかったそうです。さすがブラッカイマー、同じ轍は踏みません。きっちりアメリカが日本に一矢報いるところまで描き出します。『パール・ハーバー』というより『東京上空 30 秒』のリメイクといった方が良いかも知れません。…ってそんな映画誰も知らんか。おかげで上映時間も 3 時間を超え、私の脱力度は極限にまで達したのでした。

 今回なんといっても愉快なのは、日本軍のトンデモ描写です。軍の会議は、野原に「尊皇」と書かれたノボリを立て、土手の向こうでは子どもたちがノンビリと凧揚げに興じる、そんなのどかな風景の中で行われます。作戦の検討は、「軍機密」と大書された看板がかかるプールでフンドシ姿の屈強の男たちが模型を操作して行われる! 「ぶっふぉおう〜」と尺八の BGM が流れ、「日本というのは何とスタイリッシュで美しい国か!」と日本国民は認識を新たにするのではないでしょうか。

 最高司令官とおぼしき将校が最高にイカしてます。登場するたびに「皇国の興廃この一戦にあり…」「本当に賢明なら開戦しなかったはずだ…」「眠れる巨人を起こしてしまった…」などの名セリフを重々しく呟き、「お前、誰やねん!」と思わずツッコミたくなることウケアイです。

 目眩がするほど素敵な日本軍の描写ですが、ブラッカイマーといえば『コヨーテ・アグリー』などを見ましても一目瞭然、その作品はアメリカの貧乏白人をターゲットにしています。一般的なアメリカ人が抱く日本人像は所詮この程度なのでしょうね。アメリカ人ヴェリー・スマート! かようなアメリカにいいように手玉に取られる日本政府は何なんだ? と私は呆然と途方に暮れたのでした。

 更に、日本が世界に誇る「特攻精神」すらアメリカのものにしようとする恐るべき歴史の偽造が行われようとしています。『インデペンデンス・デイ』『アルマゲドン』でも、命を捨てて家族・同胞を守らんとす特攻精神が称揚されたのですが、東京初空襲を行ったドゥーリトル隊こそ「特攻隊」の元祖であるかのような描き方です。締めくくりのナレーションは「ドゥーリトル隊が行った決死の攻撃が、この戦争で反撃するキッカケになったような気がします…。」…やれやれ。

 しかし日本の飛行機乗りもなめられたものです。零戦乗りは少しでも重量を減らすためにパラシュートは装備していなかったそうです。「戦闘機乗り」に志願した時点で、命は無いものとの決意を固めておられたのですね。この「特攻精神」は、(当時の)プロフェッショナルとしての当然の心構えだったのです。

 ドゥーリトル隊の、「ジャップ殺す! もし墜落することがあったら、一人でも多くの卑劣なジャップを巻き添えにしてやるぜ!」という愚劣な似非「特攻精神」とはワケが違うのです。そもそも零戦が病院や非戦闘員を銃撃するわけないやんか! この映画は、英霊を侮辱したものとして決して忘れてはならない映画であります。リメンバー・『パール・ハーバー』!

 また、戦闘機乗りにとってもっとも重要なのは「視力」であると歴戦の勇士、坂井三郎氏もその回顧録(『大空のサムライ』)で記しておられます。ベン・アフレックは看護婦に色目を使って無理矢理視力検査にパスさせたもらったような輩なのです。おまけにベン・アフレックは前日徹夜で痴話喧嘩に明け暮れ、アロハシャツで飛行機に乗り込むボケナスぶり。世界最高性能を誇った我等の零戦が寝起きのベン・アフレックごときに撃墜されるわけないやんけ! いい加減にしなさい! ムグググ。ブラッカイマー許さん!

 ILM による真珠湾攻撃の再現が唯一の見どころ…と言いたいところですが、ドラマとあんまり関係がないので「やれやれ、いつまで続くのかナー」という印象です。『トラ トラ トラ!』の、朝焼けの中、爆音を上げて飛び立っていく零戦、奇襲に成功し「トラ トラ トラや!」(関西弁)と叫ぶ田村高廣のカッコ良さには到底及びません。第一、戦闘機があんなに密集して飛んだら危ないやんか。CG 臭くてどうもいけませんね。海に投げ出されてあっぷあっぷしている米兵に零戦が機銃掃射を浴びせかけるのも無茶です。ムグググ。ILM 許さん!

 一方、大方の不評を得ているメロドラマ部分ですが、ホントにどうでもいい結末まで含めて、さながら『スターシップ・トルーパーズ』を思わせ、頭がグネグネになってなかなか良い感じです。プロパガンダには馬鹿なメロドラマが良く似合いますね。また、ルーズベルト大統領が、「ちょっとおかしい人」のごとく描かれているのも溜飲が下がるところです。これも歴史の偽造っぽいのですが。まあ史実をねじ曲げるのはアメリカ映画のお得意とするところなので良しとするか。いや、やっぱり許さん! とりあえずキューバ・グッティング・Jr が『ザ・ダイバー』と全く同じような役どころで出演しているのが一服の清涼剤でした。

 ともかく世紀の珍作。オススメです。思わず吹き出したり怒り心頭に発す場面の連続ですので、アメリカ、とりわけハワイでご鑑賞になる方は、殺されないよう気を付けてください。

BABA Original: 2001-Jul-18;

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