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Movie Review 2月23日(FRI.)

リトル・ダンサー

 バレエのチュチュの群れの中に、ボクサースタイルの少年が独り。勝手にほのぼのホームコメディだろうと想像していたが、実際はケン・ローチの流れを汲んだズッシリ感充分な作品であった。

 原題は“Billy Elliot”。主人公の少年の名だ。舞台となるのは 1984 年のイギリスの炭鉱町。『ブラス!』同様、福祉予算削減・労働組合つぶしのサッチャリズムが猛威を奮っている。エリオット家もその煽りをモロに受けている。母親は死別、徘徊癖のある祖母の面倒を見るのはビリーの役目だ。父親は炭鉱一筋、兄貴は労働運動の闘士。炭鉱縮小に反対するストライキ真っ最中であり、つまり一家の収入はゼロという状況。オヤジと兄貴は、スト破りを坑道に入れさせないためのピケを張りに行く毎日だ。

 ビリーは、オヤジからなけなしの 50 ペンスを毎日受け取る。ボクシング教室の受講料だ。だが、ビリーは隣で開かれているバレエ教室が気になって仕方がない。ふと気が付くと、少女たちに混じってバレエを踊っていたのだった…。

 炭鉱のことしか知らない、ロンドンにも行ったことがないオヤジにとって、息子がバレエを踊るなど許せるわけがないのだ。イギリスは階級の区別がハッキリしているというが、バレエを見るのは上流階級のたしなみであり、炭鉱労働者には無縁の世界だ。ビリーはダンスの練習にのめり込み、王立バレエ学院のオーディションを受けようとする。しかし、それにはオヤジを説得しなければならない。子供が大人を言葉で説得するのは至難のワザだ。感極まったビリーは…ダンスを開始する。言葉では如何とも表現しがたい感情を身体の動きで爆発させる。稚拙かもしれないが、このダンスが圧倒的である。

 ダンスでこそ、出口なし・ノーフューチャーな炭鉱町で魂(ソウル)を開放できる。聞くところによるとイギリス北部でノーザン・ソウルと呼ばれる音楽に合わせ、おじさん達が激しいダンスを繰り広げると聞くが、ビリーのダンスはノーザン・ソウルと同じ素地を持っているのかも? とか考えたり。

 オヤジはビリーのダンスを見て一転、ビリーにオーディションを受けさせることを決意する。ここからが真の苦難の始まりだ。


 ビリー・エリオットの成長物語だが、映画が終わる頃にはオヤジも兄貴も、祖母までもが登場したときとは異なる印象を受けるキャラクターになっている。映画の中で彼らが見事に生きているのだ。映画の終わりは彼らとの別れであり、ちょっと悲しくなる。ビリー・エリオットの「その後」を描く続編を作ってほしいので、このラストはちょっと勿体ない感じだ。

 監督はこれまで舞台演出をメインに活動してきたスティーヴン・ダルドリー。初の長編映画にして圧倒的な感動作。泣けて泣けて仕方なし。声を出して泣いちゃうかと思いましたよ。なんか、固い話になってしまったが、語り口は軽妙、ユーモアもタップリ、これを勧めなくて何を勧める? というくらいオススメだ。あ、音楽にザ・ジャム、スタイル・カウンシルの名曲が効果的に使用されているのも見どころ。

BABA Original: 2001-Feb-23;

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