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Movie Review 8月30日(WED.)

夏至

公式サイト: http://ge-shi.com/

『青いパパイヤの香り』『シクロ』のトラン・アン・ユン監督、待望の新作。ヴェトナム三姉妹の、不倫とか、旦那の不倫とか、兄貴との近親相姦的同居生活とか、を描く。三女は兄貴のベッドで目を覚まし、ルー・リードのダラッとした歌で起き出してのんびりとフルーツなど食したり体操したりの優雅な朝の光景など、ため息が出るような綺麗綺麗な画面を呆けーっと眺めているだけで大満足! …なワケがないですね。

 ウォン・カーウァイ監督『花様年華』で撮影を務めたリー・ピンビンが起用されており、さながらウォン・カーウァイの映画のように耽美的な画面が繰り広げられ、…つまりあまり面白くないってことです(昔のウォン・カーウァイは良かったけど)。黒澤明が晩年に喝破したように「映画とはカットとカットの間に存在する」わけでして、写真集かファッション雑誌のような美しいカットを積み重ねたとしても、個々のカットの美しさは映画にはどうでもいいこと、とは言い過ぎですが、突出して美しい画面はむしろ映画の面白さを疎外するものです。もりもりもりとキャラクターの感情が盛り上がるべき場面の背景に飾られた小綺麗な花瓶は邪魔者以外の何者でもないのです。私は、画面の密度に感銘を受けつつ、いや、この退屈さは耐えがたい、途中で帰ったろかと何度も思いつつ耐えがたきを耐え忍びがたきを忍びつつ画面の粒子の運動を呆然と眺め続けたのでした。

 てっきりヴェトナム映画かと思いきや、これって舞台/出演者がヴェトナム人なだけで中身はただのフランス映画ではないでしょうか。この映画の「ヴェトナム」とは単なるエキゾチックな舞台装置に過ぎず、お話しのタッチは現代フランス映画的と言えるでしょう。監督のトラン・アン・ユンはヴェトナムで生まれるも 1975 年サイゴン陥落の年に一家でフランスに亡命(ということはヴェトナムの資産家だったのではないか? と勝手に勘ぐっているのですが)、フランスの映画学校で学んだそうで、フランス的な価値観が染みついているようです。

 フランス的価値観とは何か? 副島隆彦氏も著書で紹介されているのですが、それは、人生の最大の目的を「いい女(男)と寝て、美味しいものを食べること」に置くことなのですね。この映画の登場人物たちもまさにそれ。アメリカ帝国主義をうち破った気高きヴェトナム人民は何処へ? 果たしてヴェトナム人民はこの映画に如何なる感想を抱いたか興味深いところです。「やれやれ、朝からノンビリしてますナー。私ら目が覚めて 10 分たったら、もう満員電車でギュウギュウですわ」とか、思わないか心配です。って思わないか。

 と、いうことでフランス好きの方にはオススメです。パニッシュ・バッド・シネマ! と私は言いたい。

BABA Original: 2001-Aug-30;

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