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Movie Review 4月5日(THU.)

ザ・セル

公式サイト: http://www.cell-jp.net/

 主人公ジェニファー・ロペスは、昏睡状態の患者の意識に入り込んでカウンセリングを行うという、精神障害治療に従事しています。話変わって、異常連続殺人の犯人が逮捕され、犯人は意識不明。誘拐された女性が某所に監禁されたままで、FBI は、一刻も早く見つけねばと J ・ロペスに犯人の意識へのダイブを要請します。彼女が精神異常者の頭の中に見たものは…、というお話です。

 例えばパゾリーニ監督の作品に、よくルネッサンス絵画が引用されていたように、映画に美術が引用されるのは珍しい話ではないのですが、この映画の愉快なところは、いわゆる「現代美術」が引用されているところです。宙づりパフォーマンスステラーク牛の輪切りダミアン・ハースト、ゴージャスかつロマンチック写真のピエールとジル、ちょっと渋いところでは、オッド・ネルドラム絵画などなどが、わかりやすいところでしょうか。

 巷間では「パクリまくっている」と噂されているらしいですが、これらは現代美術オタクの気狂いの心象風景ですから、もし権利関係がクリアされておれば、イメージのオリジンが提示されていたことでしょう。腸に関する拷問の発想の元が示されたように。

 この映画は、現代美術が異常な精神を表現するためには最適であることを示しています。私のような常識人には現代美術がさっぱりわからなくても構わんもんねー、と妙に納得してしまいました。「芸術家と気狂いは紙一重」とは良く言われますが、気狂いの心象風景はとてつもなく美しい世界です。芸術家、アーティストの人たちは、こんな変梃な世界を内に秘めているのだろうなあ、桑原桑原。

「美術」の引用された映画などと聞くと「またまた、退屈な映画じゃろうなあ」とか、「まーたスノッブなことを」とか感じますが、お話は、手塚治虫のマンガにもありがちな、陳腐と言っていいくらいオーソドックスな展開で、インテリの方々だけが喜ぶ映画でなくアメリカ映画的なエンターテインメントに仕上がっております。

 インド出身のターセムという、MTV やテレヴィ CM で名を上げた人が監督で、画面構成のこだわりぶりに MTV っぽさをうかがわせます。カットの端々にもスタイリッシュなこだわりがあり、ウォシャウスキー兄弟のデヴュー作『バウンド』を彷彿としました。とにかく繰り出されるイメージの愉快さに「ああ、目が喜んでいる!」と私は呆然と感動したのでした。この快感は『エル・トポ』『柔らかい殻』などを見たときにも感じたものと同じです。死体(?)の自動人形化とか、ヤン・シュワンクマイエルやブラザース・クェイ風でもあったり。ああいう「気色悪いけれど美しい」のがお好きな方にはオススメです。

 その他、セットや衣装など、もの凄いことになっております。衣装デザインは『MISHIMA』『ドラキュラ』の石岡瑛子。CG も上手に使われていて、いやはや感服つかまつりました。

 主演のジェニファー・ロペスは『アウト・オブ・サイト』の頃と随分顔つきが変わっちゃってますが、とんでもない衣装もバッチリ着こなしてお見事。『フルメタル・ジャケット』のパイル二等兵=ヴィンセント・ドノフリオが演じる気狂い王国の主もイカしております。いやはや。

 気狂いの話の割には、ストーリーは単純明快、当たり前に決着してしまうのが物足りないかな? でも、とにかく映像が圧倒的です。できるだけ設備が整った劇場でご覧になられることをオススメします。あ、予告編では決めの映像が惜しげもなくバラされているそうですので、一切ご覧になられない方がよろしいかと存じます。完。

BABA Original: 2001-Apr-05;

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