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Movie Review 2000・9月13日(WED.)

人狼〜JIN-ROH

 アニメで、「人狼」ってから、てっきり平井和正ウルフガイみたいなオオカミ男の話を想像していたが、まるで違う。

 映画は『仁義なき戦い』さながらに、原爆キノコ雲から始まる。報道写真風のストップモーションとともに、時代背景がえんえんと語られる。

 お話の舞台は、第二次大戦後、違う歴史をたどった日本だ。性急な成長経済は、ヤマほどのプータロウを生み、反政府運動がひろがる。過激化する運動をおさえるため、警察でも自衛隊でもない第三の武装組織=「首都圏治安警察機構(首都警)」が設立される。「人狼」とは、「首都警」内部に組織されるとウワサの、謎の諜報部隊の通称だ。

 ありえたかもしれないもう一つの警察国家――日本、その首都の映像がすばらしい。昭和 30 年代を彷彿とさせる風景の中を路面電車が走る。かつて日本映画が描きえなかった(と思う)、デモ隊と警察の市街戦が繰り広げられ、ジーンと来てしまう。

 主人公・伏(ふせ)は、「首都警」の腕利きだが、追いつめた都市ゲリラ少女が目の前で自爆を遂げたことを機に、スランプにおちいる。やがて、少女の姉を名乗る女性が現れ、デートしちゃったりなんかしてるうちに、首都警、警察の権力争いにまきこまれていくのであった…ってなお話。

 基本的な設定は、押井守+藤原カムイによるコミック『犬狼伝説』をベースにしている。コミックでは、人間の「犬」性がテーマになっている。すなわち組織の中で服従することでしか、生を得られない人間たちの悲哀、ってところ。規律の中でしか生きられない者は、時代に取り残され消えゆくのみ。

 映画では、主人公と反政府ゲリラの娘の悲恋(「愛の不毛」?)が扱われ、「犬」性と人間性の葛藤が強調される。「犬」として生きることに自分の居場所を見いだした主人公は、少女を撃てなかったことで内なる「人間性」に気づく。しかし、「犬」は「犬」として生きるしかないのだ、と「人間性」を徹底的に圧殺していく。

 ありえたかもしれないもうひとつの日本は、盗聴法など警察国家化が着々とすすめられているいまの日本の戯画であろう。軍事組織に属する人間の精神構造を示している。ちょっと危険な匂いがしないではないのだが、反政府ゲリラがウロチョロする都市の状況が魅力的に描かれ、「ふたたび騒乱よ来たれ」との願いがこめられている。主人公とゲリラ娘の恋物語が、童話『赤ずきん』と平行して語られてたりして、重層的な物語だったりするのだ。

 押井守『GHOST IN THE SHELL』もすばらしかったが、オタクが泣いてよろこぶメチャクチャカッコいいシーンが弱点でもあり、今にして思えばカッコつけ過ぎかも。『人狼』では、監督に『GHOST IN THE SHELL』、『アキラ』、『MEMORIES』などの作画を部分的に担当、「なんかメチャクチャうまいヤツ」と評判をとってたらしい沖浦啓之が起用され、新人監督らしからぬ抑制をきかせまくった演出で、とにかくハードボイルド。

 作画の効率化、ってこともあるのだろうが、カメラがほとんど動かない。「大胆な構図」があふれがちなアニメにして実に新鮮。安易な感情表現を排し、人物の動きを淡々と追う演出は、日本映画の頂点に位置する、と思うな。ボクは。

 デパートの屋上にて、子どもの手から逃れた風船が林立するアドバルーンの隙間を上昇していくカットなど、メチャクチャよい。泣ける。音楽もよいです。ともかく完成度が異常に高いので、必見。みなみ会館での上映は 9 月 15 日まで。

BABA Original: 2000-Sep-13;

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