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Theater Review 2000・10月11日(WED.)

鏡山縁勇絵

 お家乗っ取り(クーデター)を目論む妖術使いの藤波由縁之丞とそれを阻止する初浦尾上之助との決戦を主題にした『鏡山縁勇絵』(かがみやまゆかりのおとこえ)という名の復活パロディー狂言。

 歌舞伎にはパロディーものがたくさんあり、京鹿子娘道成寺を元祖とする道成寺物には奴道成寺・二人道成寺・男女道成寺・百千鳥道成寺・切支丹道成寺・大津絵道成寺…(まだまだ)…と数多くの作品が作られてきました。

 この『縁勇絵』も『鏡山旧錦絵』(1782 ・天明 2 年・楊容黛作)のパロディーもので江戸時代には爆発的にヒットしたものの一つです。現在は元祖の『旧錦絵』と『加賀見山再岩藤』というパロディー作品だけが上演されるだけになってしまいました。

『鏡山旧錦絵』内で加賀藩のクーデターを目論み見事に失敗し殺されてしまう局・岩藤の孫に当たるのが藤波由縁之丞(中村橋之助)。ある日、土手を歩いていると白骨化した死体に出くわします。散らばる白骨は自然と集まり祖母・岩藤の亡霊が出現、孫の由縁之丞に「自らを殺したお初の甥・尾上之助を殺して恨みはらし、荒地気を再興してくれ」と頼みます。

 妖術をたくみに使い、多賀藩(加賀藩のこと)を脅かす由縁之助に初浦尾上之助(市川染五郎)や家臣の船越惣吾(中村翫雀)は手を焼きますが、家宝の弥陀の尊像に辰の年月日刻揃う女の生き血を注げば妖術が破れると知ります。惣吾の最愛の妻・お糸(中村扇雀)は辰の年月日刻の揃う女でそのことを知り自ら犠牲になります。

 大詰では系図や着ていた祖母・岩藤の小袖を証拠に詰め寄られた後、妖術で対抗するが尊像の功徳で術は破れ御用となる。

 この芝居が最後に上演されたのは明治 40 年 12 月でもう 100 年近く前の作品で、俳優もスタッフも誰もが見たことのない芝居です。そのため、科白・音楽・大道具小道具などの考証をして、一から復活させる作業を要します。

 残されているのは作品の元になった読本『北雪美談時代鑑』(二世為永春長)とその中におさめられている妖術の挿絵のみということらしい。

 キャスト・スタッフの発想、それは 1 枚の挿絵から生まれました。印を結び蝶々を自在に操る『蝶々の妖術』の場面には、歌舞伎には珍しく超魔術師 Mr ・マリック氏に依頼してイリュージョン形式での演出も加わり、唐破風付きの南座の劇場には蝶々を模った和紙が無数に飛び散り、それはそれは幻想的な舞台になりました。

 その他にも骨寄せの場、蛍光塗料を使い無気味に光る蝶々の大群、不思議に浮かび上がり光る仏像など新旧のからくりを織り交ぜての演出はこれからの新しい歌舞伎を感じさせるとともに、「歌舞伎? つまらんのとちゃうの〜?」という方でも手に汗握ってみていただる秀作に仕上がっていると思います。

 誤った解釈や間違った演出によりそれは歌舞伎独自のルールを忘れ、単なる芝居どころか面白くともなんともない演劇の残骸と化す可能性があるのではないでしょうか? 元来からあるルールを忠実に守り、衣装・かつら・下座にも細心の注意を払ったからこそこれほど見ごたえのあるものになってるのでしょう。

 演出の奈河彰輔はパンフレットに「超魔術のイリュージョンで立体化された浮世絵が、古風な歌舞伎でどう生かされるのか‥…吉と出るか凶と出るか、大方の判定を待つばかりの心落ちつかぬ初日前である。」と語っている。が、見事に吉と出たようです。初演から約 100 年の歳月をかけて「歌舞伎=かぶく=異端」という原点に戻り、本気で歌舞伎を面白くしようというキャスト・スタッフ気が感じ取れたのは僕だけではないはずだ。

akira28:web site「28web 」)


Original: 2000-Jan-11;

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